住宅の劣化事象の中で、雨水の浸入や結露、あるいはシロアリの進入懸念箇所などに着目するのは、ひとつには、それらが腐朽や蟻害の原因となって、木造の柱・梁・土台など住宅の駆体(骨組み)に決定的なダメージを与えないように、という思いが背後にあるからです。
ところで、駆体のダメージという点に限れば、木造に比べると鉄筋コンクリート造や本件のような重量鉄骨造の住宅では、そうしたリスクへの意識は希薄と言えるでしょう。
目次
重量鉄骨の家に住むということ
築30年のお住まい、となると、そろそろ駆体(骨組み)にも不安が表われることも少なくありません。
しかし、このお宅は重量鉄骨造3階建て。お話の端々から、駆体の丈夫さに対する自信が感じられました。
ご主人様:「この住宅を息子たちに引き継ぎたいと思っています。その時、かなりの改修が必要になるでしょうね。それは次の世代に任せますよ」
骨組みはがっちりしているので、改修をして次世代に引き継ぎたい、とのお考えです。
鉄骨造(S造)の住宅と言っても、2階建てまでなら、いわゆる軽量鉄骨造。イメージとしては木造住宅の柱・梁を鉄骨に置き換えた感じです。
しかしこのお宅は3階建てということもあり、重量鉄骨造。間口約8.5mの間には構造用の柱を建てず、3層の無柱空間です。
天井点検口から覗くと、頑丈そうな鉄骨の梁が見えました。
3階建てでがっしりした住宅を建てるならRC造(鉄筋コンクリート)造という選択もあったでしょうが、「室内に柱が立つのが嫌だったので」この構造となりました、とのことでした。
ちなみに、同じ鉄骨造でも、鉄骨の鋼材の厚さが6ミリ以上のものを「重量鉄骨」、6ミリ未満のものを「軽量鉄骨」と、一般には呼んでいます。
躯体がしっかりしているせいか、室内には大きな問題は見られません。床・壁の傾きや雨染み・結露跡など、中古住宅で良く見られる事象はほとんど見られませんでした。
1階和室内部に、砂壁の色ムラ(表面のカビ)と畳下地の荒床に部分的な白カビが見られたので、湿度が高くなる季節には除湿が望ましいこと、また、応急的に薬用エタノールなどの噴霧でカビを除去することなどをお勧めした程度でした。
30年の重み1:外装材(窯業系サイディング)
しかし、問題は外部でした。
竣工以来30年、多少の改修を除いて、ほとんど住宅外部に手を付けてこられなかったその結果が、外壁、屋根、基礎の各所に現れてきていました。屋根に上るタラップもなく、窓付近以外の外壁の高所にゆく足場もないため、日常的な外部の維持管理は望むべくもありません。
外壁に使われている窯業系サイディングとは、セメントや繊維質、混和剤などの混合原料を成型して作られた板状の外壁材です。1970年代に登場し、1990年代には住宅外壁の主流になってきました。ちょうどこの住宅が建てられた頃です。防火性や耐久性に優れた外壁材ですが、太陽光、降雨、寒暖差に年中晒されるため、時間の経過とともに劣化が進行します。
ここでは、この住宅の外壁を題材にして、窯業系サイディング外壁の経年劣化について考えます。
①サイディングの変色・退色
住宅外壁のサイディングは、紫外線・風雨・寒暖差などの影響を受け続けて、まず塗膜表面から樹脂の劣化が始まり、光沢(ツヤ)が低下して、退色が始まります。特に紫外線の影響は大きく、塗料の樹脂を破壊・劣化させ、変色させます。
このお宅の外壁では、随所に塗装の退色や変色が見られました。
ちなみに、窯業系サイディング自体には防水機能はありません。そのままの状態では、水分を吸い込み次第に劣化してしまいます。そのため工場で生産する際に塗料を吹き付けて防水機能を持たせます。この意味でも塗装の劣化を軽視できません。
②サイディング固定のクギの跡
この外壁は、サイディングをクギ打ちで固定するタイプですが、外部の各所でクギの跡が見られます。
新築の頃は、クギの頭は外壁と同色に塗られて目立ちませんが、経年とともにクギ頭の補修部分が目立つようになります。
なお、現在では、サイディングを外壁に固定する方法として、このような(1)クギ打ちで留める方法と、(2)専用の固定金具で留める方法があり、一般には厚さ14ミリ程度のものはクギ打ち、15ミリ以上のものは固定金具留めとしています。
(2)の固定金具による方法は、「材厚増+金具」によるコストアップになりますが、将来クギ頭が目立つようなことはなくなりますし、クギによる割れなどの問題もなくなります。
新築の頃は、 (1)でもほとんどクギ頭は目立ちませんが、間近で見ると分かりますので、外壁の材厚まで推測できるというわけです。
③ チョーキング
表面の塗膜の樹脂劣化が進むと、やがてチョーキング(白亜化)が始まります。サイディング表面を指で触ると、指先が白くなるのがチョーキングです。
塗料の中の樹脂がチョークのような粉状になってしまうことからこう呼ばれます。このお宅の外壁でも写真のように、指先がかなり白くなってしまいました。
一般的に、チョーキングが見られるようになったら、外壁を塗り替える時期になったサインとお考えください。
④コーキングの劣化
コーキング(シーリング)というのは、サイディングボード同士や、ボードとサッシとの隙間などのつなぎ目を埋めて、雨水の浸入を防ぐ、防水材のことです。これらのつなぎ目は、気温の変化や建物の揺れなどによって、絶えず動いています。また、外壁同様に太陽の紫外線に晒されているため、劣化の進行も早く、耐用年数5~10年、シールの打ち替え時期10年おき、などと言われます。
コーキングの劣化は、進行度合いによって、ひび割れ、剥離、破断、欠落などがあります。
この住宅では、これらの劣化症状の事例が見られました。
コーキング表面のひび割れ
紫外線などの影響で、表面にひび割れが起きた状態です。
コーキングの剥離(はくり)
コーキングとボードなどの接する面が剥がれて、隙間ができてしまった状態です。原因としては、経年劣化による場合もありますが、もとの施工自体の不良による場合もあります。いずれにしても、この状態では外壁を伝って雨水が入ってしまう恐れがあるので、コーキングの打ち直しが必要です。
コーキングの破断
コーキング自体が裂けてしまい、中が見えるほどの状態です。雨水浸入が避けられない状態ですので、ただちに打ち直しが必要です。その際、内部に雨水が入った形跡がないか、確認をしておくことが望ましいと言えます。
コーキングの欠落
コーキングが剥がれ落ちて、コーキング自体が見られない状態です。経年変化のほか施工不良(プライマー施工の不備など)が原因の場合もあります。下の写真は、通常の破断以上に開口が目立つので類似例として引用しました。
最後の劣化事例などは、内部への雨水浸入と、その結果の木部、断熱材などへの含水、劣化が懸念されるので、今後の全体改修の機会を待たずに、局所的にでも応急処置をされた方が良いのでは、と申し上げました。
⑤サイディングのひび割れ
サイディングはそれ自体には防水性がなく、表面の塗装面で防水しているだけなので、外壁のサイディングにひび割れができると、そこから徐々に雨水が浸入して、サイディングボードがそれを吸い込んでしまい、基材そのものの劣化や変形につながります。
ひび割れの原因は、ボードの固定クギや、室外の設備機器や配管の固定ビスなどによるもののほか、微少なひび割れから雨水が吸水され、晴れて乾燥したりして膨張収縮を繰り返してひび割れが拡大するようなケースがあります。
⑥サイディングの反り、浮き
水分を含んでしまったサイディングボードが膨張収縮を繰り返す中で、表面側(太陽のあたる側)から乾くために、反りを生じてしまった結果です。
軽度な場合はクギ打ちで是正できる場合もありますが、重症の場合はパネル自体の交換が必要になります。
⑦上記以外のサイディング不具合
本件では見られませんでしたが、上記以外の窯業系サイディング不具合としては、「カビ、コケの発生」や「爆裂、凍害」などがあります。
30年の重み2:屋根材(化粧スレート)
この住宅の屋根は、化粧スレートいわゆるコロニアル葺きです。
竣工より30年経過した屋根で、その間大きな改修などを行わなかったため、劣化の兆候が見られます。ここでは、この住宅の屋根を題材にして、化粧スレート(コロニアル)屋根の経年劣化について考えます。(以下、別のコラムの内容と一部重複する部分があります)
経年劣化に関して、①屋根材である化粧スレート自体の問題、②それを押さえる金物の問題、③その他、の順に扱います。
①化粧スレートの経年劣化について
木造住宅の化粧スレート(コロニアル)屋根は、垂木(たるき)の上に、構造用合板などの野地板(のじいた)を張り、その上にアスファルトルーフィングなどの防水紙(下葺材)を敷き、その上に化粧スレートを専用釘で留め付けます。
表面のスレートが割れたりして、雨水が浸入したとしても、その下の防水紙が二次防水の役割を担うので、直ちに漏水することはありません。しかし、スレートの破損をそのままにすれば、やがて防水紙も劣化します。
化粧スレート屋根の劣化は、一般的には、時間の経過とともに次のように進行します。
良好状態→色褪せ(チョーキング)→塗膜剥離→ 基材湿潤 → 基材破壊(凍害)
色褪せや軽微な塗膜剥離は劣化が始まったサインと言えるので、これらを確認した場合、早めにメンテナンスを行うことが大切です。
さらに進行して、基材破壊(凍害)や著しい反りなどの段階になると、屋根の葺き替えが必要になります。
本件の住宅の場合も、塗膜剥離が相当進行していて、早期の対応が必要な状態でした。
化粧スレート屋根のメンテナンスは、定期的な再塗装が必要です。塗装自体は、防水性能を改善するのではなく、スレート屋根の表面を保護するために行います。
塗膜が消失すると本体基材が吸水するようになり、反り、破損、こけの発生などの原因となります。
それらを放置しておくと、やがてスレート面から雨水が浸入することになります。その下の防水紙が二次的に防水してくれるものの、やがては雨漏りにつながります。この時点では、劣化は相当進行していることになります。浸入した水はやがて木部を腐朽させたりします。
下葺材である防水紙の劣化の程度は、屋根外観からは判断できないので、小屋裏(天井裏)の野地板を点検し、雨漏れなどの症状を確認して判断します。
この住宅の場合も、垂木に沿って、野地板の表面に雨染み跡が見られました。
スレート屋根のメンテナンススケジュールについては、条件により年数は変動しますが、定期的に塗装を行い、時期がきたら葺き替えを行います。
下にその一例を引用させていただきます。
本件の場合は、一般的な基準からすれば、屋根の葺替え時期を迎えているということになります。
②棟板金の経年劣化について
屋根の棟(むね)とは屋根の頂部の、両側の屋根面が接するところです。化粧スレート葺の屋根の棟では、ここに棟板金と呼ばれる金属板で塞がれるのが一般的です。
屋根頂部手前までスレートが葺かれ、棟の両側でそのスレートの上から貫板(ぬきいた)と呼ばれる木材を打ち付けます。その二枚の貫板に棟板金(棟包み)をかぶせ、側面から貫板に向けて釘を打ち付けて棟板金が固定されます。
この釘が浮いていたら要注意です。しかし、普段は地上からは見えにくい場所にあるので、気がつかないことが多いです。
棟板金はスレートが葺けない屋根の最上部を、スレートに代わって風雨から守る役目を担っています。屋根の最上部に設置されているので、風の影響を受けやすく、隙間から風が吹き込んだりして棟板金が煽られます。風の力のほか、太陽に熱せられたり、雪に冷やされたりして、金属板特有の伸び縮みによる力も受けます。
このような過酷な条件に絶えず晒されているので、側面から打たれている釘が少しずつ浮いてきます。また、貫板が痩せてしまったり、雨水の浸入により腐食したりしてしまい、釘が効かなくなるケースもあります。
釘浮きの結果、棟板金を固定する力が弱まり、台風などの時に棟板金が飛散してしまう危険性があります。
この住宅の場合も、棟の部分は棟板金で塞がれています。しかし、経年劣化によって、棟板金の留め付け釘の一部がすでに失われている模様でした。
スレート部分の葺替えとともに、棟板金の改修が必要な状態になっています。
改修にあたっては、棟板金の下地である貫板がどの程度劣化しているかによって、貫板そのものから交換するか、釘の打ち直し(またはビス止め)程度で済むかを判断します。また、棟板金自体も、錆落としの上再塗装とするか、板金そのものを交換するかを判断して、改修を進めます。
棟部の劣化抑制という観点からすると、貫板を防腐処理済みの木材としたり、樹脂製のものを採用したりすることが考えられます。留め付けも釘ではなく、ステンレス製のビスとする方が望ましく、棟板金も亜鉛メッキ鋼板(いわゆるトタン板)よりガルバリウム鋼板(アルミ・亜鉛合金メッキ鋼板)を選択することなどによって、より耐久性を高めることができます。
③スレート屋根のアスベスト問題(参考)
スレート屋根は、「コロニアル葺き」と呼ばれたりします。「コロニアル」とは、ケイミュー(旧クボタ松下電工外装株式会社)という会社が販売する屋根瓦の商品名です。「スレート」と言う呼び方には、「石綿スレート」のイメージが強く、それを避けるため、「コロニアル」とか「カラーベスト」などの商品名が使われました。もともとスレートは強度を高めるためにセメントに石綿(アスベスト)が含有されていました。
石綿(アスベスト)を含む製品は2006年(平成18年)に全面禁止されたので、平成18年より前の住宅の屋根には石綿が含有されている可能性があります。しかし、その石綿は基材となるセメントで固められているので、スレートが屋根に葺かれているあいだは石綿が飛散する恐れはほとんどないと言われています。
問題となるのは、スレートが割れたりする場合です。注意したいのは、耐用年限を過ぎて葺き替えが必要になり、撤去する際に割ったり、切断したり、穴を開けた場合、飛散の恐れがあります。葺き替え時期を迎えたスレート屋根の工事には、(1)既存スレートを撤去・葺き替える方法と、(2)既存をそのままにしたカバー工法があります。
(1)の場合、石綿(アスベスト)入りのスレートを撤去する際、法律に則って、非飛散性石綿含有建材としての解体・廃棄物処理することが必要になります。危険のないように十分配慮した特殊な形で行うため、処理の費用が割高になります。(2)のカバー工法は、既存の屋根材の上に新たな屋根材を重ねて、石綿の封じ込めを行うもので、撤去費用がかかりませんが。2度目に全体の改修工事をする場合は葺き替えとなるので、その時には更に撤去費用がかかってしまいます。その住宅をいつ頃まで使う予定か、といったライフプランも検討材料となります。
葺き替えの際以外に、高圧洗浄を行うような場合も、屋根材の劣化程度によっては表面を傷つける恐れもあるので、いずれにしてもアスベストの取扱いのできる業者に相談した方がよろしいです。
築30年重量鉄骨の住まい
竣工して30年のこのお住まいは、駆体がしっかりしているせいもあり、大きな改修もなく現在を迎えられました。住み手の代替わりを機に改修を考えているとのお話でした。
しかし、敢えて申し上げるならば、駆体は重量鉄骨で、柱・梁はまだまだ継続使用に耐えられそうですが、その一方、外壁や屋根は木造下地を組んだ上で、木造住宅と同様の仕上げです。これらの仕上げの部分は、本来ならば木造住宅と同様のメンテナンス周期での維持管理が行われるべきであったと思います。
報告書提出後、ご事情のためしばらく時間があいた後、お手紙を頂きました。
屋根、外壁は懸念していた通りで、修復を以前より考えておりました。
ご返事が大変遅くなり申し訳ありません。 ( 略 )
ありがとうございました。
(原文手書き、内容一部省略)
外部仕上げ材の劣化は、言われるまでもなくずっと懸念事項であったこと。しかし、駆体が頑丈なこともあり、日々の不都合を感じてこなかったため、ここまで来てしまった、というご趣旨です。
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