お住まいの中で、毎日目にする部位、たとえば、壁や天井。
そうした部位にかすかに、さりげなく現れる、劣化のサイン…たとえば、壁や天井の表面のかすかなシミ。
生活するご本人も、指摘されてはじめて、ということも少なくありません。
では、そのシミの裏側はどうなっているか。
目次
わずかな染み
下屋(げや、下図参照)となっている住宅の廊下(縁側)の室内側に、ほんのわずかに雨染み。
ご主人様:「指摘されるまで、まったく気がつきませんでした。でも、言われれば、たしかにうっすらと見えますね」
こうした天井の壁際に沿ったかすかな染みは、住まい手ご本人でも意外と気がつかないものです。
これが雨染みなのか結露跡なのか、天井裏を覗きたいところですが、2階の屋根裏とちがって、下屋の天井の多くには点検口がなく、天井板のどこも外れないことが少なくありません。
レポートでは、この箇所について、「廊下天井にわずかながら雨染みが見られます。要経過観察です。台風や強雨時の直後にシミの広がりが見られないか注意してください」と、コメントしました。
加えて、「観察をより確かなものとするには、廊下つきあたりの物入れ天井に点検口を設けてはいかがでしょうか」と、参考意見を添えておきました。
ルーフバルコニー下の居室や下屋の部分というのは、雨漏りリスクが高い箇所であると同時に、断熱材の設置が不十分になりがちな箇所でもあります。そして、その付近に、天井裏の点検口が見当たらないことが少なくありません。
ところが、後日、ご丁寧にこのような連絡をいただきました。
先日は拙宅の住宅診断、ありがとうございました。
仏間前縁側の天井の少しのシミ、あれは指摘されるまで気が付きませんでした。しかし指摘されると、今度は気になって仕方ありません。( 略 )に相談したところ、来週物入れの天井のところに点検口を付けてもらえることになりました。
(以下略)
「指摘されると、今度は気になって仕方ありません」というお気持ちはよく分かります。立派なお仏壇のある仏間前の縁側でしたから、天井の雨染みなどは放っておけない、ということだったのでしょう。
天井点検口を設置
この依頼主様は、さっそく地元の親しい工務店に相談し、物入れに天井点検口を新設されました。再度訪問すると、南側の縁側の両端にある物入れを利用して、その両方の天井に新設開口がありました。
物入れの中段にあがり、点検口を開けると、断熱材に覆われていました。断熱材が点検口の上まで敷かれている点は望ましいことです。(写真は物入れ天井を見上げたところです)
断熱材をめくって天井内を覗くと、手前の天井面に乾いた染み跡。これが、問題の縁側天井の染み跡の裏側(天井内)でした。
さらに養生紙が残ったままの柱のところにも染み跡。養生紙表面に乾いた状態の染み跡でした。
この時点ではすっかり乾いてはいるものの、柱の方は上方から流れた跡となっていました。そこで雨水の浸入経路として、2階のこの隅柱に外部から取り付けられている樋受け金物、あるいは、後付け窓手摺りの壁際固定部にあるビス穴部分からが考えられ、いずれかのシール劣化による雨水浸入ではないかと想定しました。
問題は、これらの雨染みが一時的なものなのか、雨が降るたびに染みてきているかということです。
工務店の人は、天井の染み跡の話が出た時点で、金物のシール部分の確認を行ったようです。かすかな天井の染みに、良く気がつかれましたね、と言われたそうです。
今後はこの点検口を使い、次回の大雨の直後に、主に柱の表面に新たな水染みが生じていないかどうか確認して、一時的なものなのかどうか判断されてはいかがでしょうか、と申し上げました。
下屋部分天井内の断熱材の状況
今回、天井点検口が新設されたので、下屋部分天井内の断熱材の敷設状況が確認できました。
水平面では、下屋天井面の室内側にそって、断熱材の欠損が見られます。また、壁面では、2階を受ける桁(胴差し)の上は塗り壁となっていて、胴差しから上部は断熱材が連続しています。
従って、壁際水平面と胴差し下までを断熱補強することが望ましいと言えます。
以上をまとめて、今後の方向性としては、
➀まず、水染みが一時的なものか、継続しているかを、大雨直後に新設点検口から観察する。
②継続している場合、2階外壁の金物取付け部のシールを本格的に改修する。
③水染みが一時的なものと考えられた場合、またはシールにより止水できた時点で、天井内室内側の断熱欠損部を補填する。(ロール状に丸めたグラスウールを点検口から搬入し、設置方向に向かって断熱材の反発力を利用して敷き込むなど、事前に施工方法の検討を工務店に依頼する)
といった内容をお示ししました。
そして、「要継続観察」1年後
依頼者様が下屋の縁側両端にある物入れに天井点検口を設置して約1年後、このお宅を再度訪問する機会がありました。
「まずは継続観察」とした、その結果を拝見できる貴重な機会でした。めったにないことです。
はじめに縁側廊下天井見上げ。
もともとご本人も気がついていなかったくらいのわずかな雨染みでしたが、1年後も「外観に拡大の様子は見られず」でした。
次に、点検口を開けて、天井床面および隅柱の雨染みの劣化進行の有無を確認しました。
いずれも、1年前と染み跡は変わっておらず、当初の雨漏りは一時的なものであったと考えられます。
この1年、大雨の直後も特に濡れた感じなどは見られなかったそうで、こうした「自己点検」も点検口があればこそ、と言えます。
最近の住宅では、「劣化対策」の観点から、床下・天井点検口の設置が一般的になってきました。しかし、そこを覗いたことがないという方が多く、定期的に確認しているというような方はごく稀です。
ぜひ自己点検のための点検口利用をご検討ください。
お世話になって居ります。
仏間前縁側の天井の雨漏りは一時的な物だったようで安堵しました。昨年御提案の最後にありました、縁側天井内の断熱材補充の件をどうするか、費用と相談しつつ思案です。
(以下略)
この時の最後に、縁側の反対側の端にある物入れの、もう一つの天井点検口から下屋天井内を拝見してきました。断熱材については、反対側からと同様の敷設状況でした。横架材下の断熱材欠損が今後の課題です。
本件からの教訓
① 1階の天井のうち、下屋の天井、ルーフバルコニー直下の部屋の天井などには、点検口があることが望ましい。
② 天井の雨染みなどの場合、存在の指摘と「要継続観察」として報告書に書かれることも多いが、その「観察」の方法として、本件のように点検口から天井内部が覗けるようにしておくと、劣化の拡大に早めに気づくことができるので有効。
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