前回は、内覧会、静寂の床下をゆく ~ 新築の床下(その1)のタイトルで、床下進入調査でよく見かける不具合やチェックポイントについて、お話ししました。
今回はその続き、いわば第二部で、床下から見える基礎コンクリートについてのお話しからはじめます。
目次
はじめに(依頼者様の「声」から)
前回冒頭で、「内覧会のインスペクションは意味がない」という、おそらく匿名のサイト書き込みに対して、依頼者様の内覧会後の「声」と、あなたなら、どちらを信用しますか、という問いかけをしました。
(内覧会前の)メールでのやりとりの段階からとても丁寧に対応していただきありがとうございました。隅々まで確認いただき、とても安心することができました。内覧会終了後の写真とコメントがとてもわかりやすく、勉強になりました。床下移動経路についても補足いただきありがとうございます。ご無理を言ってすみませんでしたが、お手数おかけしました。様々な相談にも乗っていただき、誠にありがとうございました。(原文手書き、太字化・カッコ内補足等N研)
これは、最近の内覧会立会いの依頼者様からいただいた、内覧会後の「声」です。
この中で、「床下移動経路」とあるのは、床下進入調査で移動したルートを、基礎伏図を加工したものに記入してお示ししたものです。
一般の方は、おそらく基礎伏図(きそぶせず)など説明を受けたことなどなく、この依頼者様も、たとえば「人通口」と言われても、どこのことなのかお分かりになっていませんでした。無理もありませんね。
そこで、依頼者様との事前メールの中で、基礎伏図の簡単な説明をして差し上げました。その上で、床下進入調査後に、実際に床下のどこを通ったのかをお示ししたというわけです。
ところが、事前の基礎伏図の説明の際に、そこに給水管、排水管のルートを図上で確認できていると、当日効率的に床下を動けます、などとご説明したのですが、何と・・・
・・・先方からは「排水管ルートを示す図面は無い」との回答がありました。(原文メール、太字化N研)
本件は新築物件なのに、排水設備図あるいはそれに類する図面を作成していないのでしょうかね。いや本当は、排水管を設置するための何らかの図面は、設備業者の方に、当然あるでしょう。
しかし、売手側が排水管の図は「ない」と言い張るのを、依頼者様に押し問答させるわけにも行かなかったので、床下進入調査後に「移動経路」をお示しして、さらに、そこにあった排水管のおおよその位置をご説明した次第です。
床下を移動する場合、管径が太く、しかも勾配が必要な排水管が、行く手を阻むことは少なくありません。そのためにも事前に、床下の排水管のルートを、基礎伏図に重ねて見ることで、移動上の支障の有無をある程度予想できます。
買手である依頼者様は、内覧会時には、床下に入ることまではしないと思いますが、少なくとも内覧会の時点までには、購入する住宅の床下がおおよそどのようになっていて、床下の給排水経路などがどのようになっているかと言った、ご自分の資産の維持管理にかかわることは、売手側が図面などで説明しておくべきではないでしょうか。
基礎立上りをめぐって
基礎の表面
床下進入調査で見る住宅の外周基礎は、もちろんその内側(床下内部側)の部分ですね。
次の図と写真のように、住宅診断では、住宅の基礎を「外部」と「内部」から診断します。そのうち「外部」はモルタルなどの仕上げがしてあることがほとんどなので、非破壊のレベルでは、基礎コンクリートのままの表面を観察することはまずできません。
もしモルタルなどの仕上げにクラック(ひび割れ)が見られる場合は、ご存じの方も多いと思いますが、ひび割れの巾と深さを測定します。
そのクラックが表面の仕上げだけでなく、コンクリート躯体まで及んでいるかどうか、そして、内側の同じ位置にクラックがないかを観察します。
ここまでは、目視と計測が可能なところです。ちなみに・・・
木造住宅の基礎のクラックについては、既存(中古)住宅の場合は、国土交通省「既存住宅調査方法基準」(平成29年告示)の中に、「幅0.5㎜以上のひび割れ」、「深さ20㎜以上の欠損」、「コンクリートの著しい劣化」その他の「劣化事象の有無」を調査する、とあります。
また、
「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」(平成14年告示)では、「幅0.5㎜以上のひび割れ」「深さ20㎜以上の欠損」その他について、「構造耐力上主要な部分に瑕疵が存在する可能性が高い」とあり、「幅0.3㎜以上、0.5㎜未満のひび割れ」「5㎜以上20㎜未満の欠損」その他は、瑕疵の可能性が「一定程度存する」とあります。
これらを参照して、新築の場合についても、基礎のひび割れについて、「幅0.5㎜以上」または「深さ20㎜以上」をひとつの目安にすることが多いです。
基礎の「打継ぎ」~ 基礎の二度打ちの問題点
一般的に行われている、コンクリート二度打ち工法
住宅の基礎については、「打継ぎ(うちつぎ)」の問題があり、これは目視ではなかなか確認できません。
住宅の基礎工事では、ベタ基礎などの場合、「コンクリートの二度打ち」が一般的です。
これは、次の模式図のように、基礎の鉄筋の組み立てが終わったら、まず①ベース部分(耐圧盤)のコンクリートを打設し、そのベース部分に基礎立上り部分の型枠を組んで、②立上り部分のコンクリートを打設する、という基礎工事の手順のことです。
図面では何のことかよく分からない、という方のために、それぞれの段階の現場イメージ写真は次のような感じです。
この二度打ち工法は戸建て住宅では、ごく一般的な方法ですが、少なくとも二つの問題点があります。
打継ぎ面
ひとつは打継ぎ面が生じること。それが、わずかな空隙を生む可能性があること。
本来、基礎は一体のコンクリートとなっていることが望ましいのですが、この工法の場合は、ベース部分を打設して、その後、立上りの型枠を組んで、2回目のコンクリートを打設します。
一般には、ベースのコンクリート打設後、数日おいて2回目のコンクリートを打設するので、この両者のコンクリートの境界は、打継ぎ面となります。ベースと立上りのコンクリート部分は、鉄筋によってつながってはいるものの、実は打継ぎ面のコンクリ-ト同士は一体化していません。
ベース側表面にはレイタンスと呼ばれる強度の弱い皮膜ができていて、本当はこの皮膜を除去してから立上りを打設することが望ましいのですが、戸建て住宅の現場では、あまり行われていません。せめて、2回目の打設前に、打継ぎ面に散水して面の接着性を高め、表面のゴミを取り除くようにしておきたいものです。
それでも、この打継ぎ面に局所的にせよわずかに隙間が出来てしまえば、防水上問題で、またシロアリの侵入路となる危険性を残すことになります。
打継ぎ面に限らず、コンクリート打設時に、ジャンカ(豆板)と呼ばれる、骨材(砂利)の露出部分が生じてしまった場合は、その空隙の不良度合いに応じた補修が必要です。
なお、二度打ち工法の打継ぎ部分の防水上のリスクに対しては、止水板(プレート)や止水材といった止水処置を施すことが理想ですが、ここまで行っている現場は限られます。
セパレーター金物
ふたつめは、立上がりの型枠を固定するためのセパレーター金物です。
セパレーターは、上の模式図に示すように、打継ぎ部分にセットされて型枠下端を固定するための金物です。これは、2回目のコンクリートが打設され、型枠が取り外された後も、本体は基礎の中に残ります。
両方の先端部分は折り切りますが、セパレーター本体は、ちょうど基礎を貫通するかたちで残置されるので、この金物に沿って僅かな穴が生じていれば、シロアリの侵入経路となる可能性があります。
また、折り切られた端部が錆びている例もあり、先端を折り取ったあと防錆処理を適切に行う必要があります。
セパレータが基礎を貫通して残置されると言う問題に対して、貫通しないように「半セパ」という片側だけに使われるセパレーターがあります。
打継ぎ面を作らない、一体打ち工法
一方、こうした「コンクリートの二度打ち」に対して、「コンクリートの一体打ち」という工法があります。
これは、鉄筋組立て後、特殊な型枠(浮き型枠)を用いて、ベース(耐圧盤)と立上り部分までコンクリートを一度に打設する方法です。
この工法は、コンクリートを一度で打設してしまうので、二度打ちのような打継ぎ部がありません。
打継ぎ部がないので、防水上もシロアリ進入防止の点でも好ましいと言えますが、二度打ちに比べて、コストがかかることと、慎重な施工管理が必要になります。
このメリットを掲げて、この工法を採用し、自社の独自性を強調している施工会社もあります。コスト増も当然ながら、工事の作業員への教育を含めた、施工管理の経験を積んできた会社でしょう。
打継ぎ部のリスクを減らすためには
以上のように基礎打継ぎ部の防水とシロアリのリスクを低減するためには、
・二度打ち工法に、止水処置(半セパの採用、止水材の使用など)を行う
・一体打ち工法を採用する
ことなどが望ましいと言えます。
しかし、現実的にはコストと手間の問題があるので、これまで通りの二度打ち工法が続くと思われます。その場合でも、
・セパレータの折り切り後の切り口の防錆処理
は、忘れないで行うようにするべきでしょう。
敷地に高低差がある場合の基礎についての注意点
住宅が接している地面、つまり、その住宅のまわりの地面はほぼ平坦というような、漠然としたイメージがありませんか。しかし・・・
敷地内高低差により、打継ぎ面が周辺地盤より低くなるケース
よく内覧会の事前資料で図面を拝見することが多いのですが、その中にある「標準矩計図(かなばかりず=断面詳細図のこと)」には、たいてい「設計GL」などという建物完成後の想定地盤ラインが描いてあり、そこから多くは、50~60㎜ほど高い位置に、ベタ基礎などの底盤(耐圧盤)の上面が来るように、みたいに表示されています。(30㎜などという図面もあります)
たとえば、下の図のようなイメージです。
このように、ベタ基礎などの底盤上面を周囲の地盤より高くする、というのは、湿気対策としても、打継ぎ部からの浸水への配慮としても意味があります。
確かに、敷地に高低差があっても、基礎底盤が周囲の地盤より低くならないように、土地を成型して、周囲をほぼ平坦とすることも多いです。たとえば、土留めや擁壁を使って、敷地を平坦にします。
しかし、そうせずに住宅の基礎のところで、高い方の地盤を受け止めるという例もあります。
たとえば、次のような例です。
この例は、図の右側の地面が高く、左側が低い敷地の場合です。
しかし、地面が高い方の写真を見ても、普通の平坦な敷地の場合の基礎と同じように見えますね。
実は、この基礎は、立上りが普通の基礎よりかなり高くなっています。普通は、先ほどの詳細図のように、基礎は1階の床下までですが、この例ではそこからさらに基礎を立ち上げています。
一般の方は、言われてみてはじめて気が付く、ということかも知れませんが、図の右側、高い地面の側では、1階床と地面がほぼ同じくらいのレベルです。
問題は、この土がかぶる部分の基礎に、しっかり防水措置がしてあるかどうか、特に基礎立上りと底盤部の打継ぎ箇所に止水処置がしっかりできているか、という点です。
大雨が降り続いた時などは、この土中に雨水が溜まりますが、その水が床下に浸水してこないようにしてあるかどうかです。
さすがに、基礎の外部側面に何らかの防水は行うでしょうけれど、こうした場合では、打継ぎ部に止水処置(あるいは基礎の一体打ち)を行った上で防水を行うくらいの配慮が望ましいと言えます。
第二部のおわりに ~ 見えない「基礎」の基礎知識
住宅の床下第二部は、床下側からも外部からも見えにくい基礎の「打継ぎ」部分をめぐる話題を主に取り上げました。
第一部から通して、見えない「基礎」、特に打継ぎ部はかなり弱点であることがお分かりいただけたでしょうか。
しかし、この弱点も、たとえば仕上げのモルタルがひび割れなければ、セパレーター残部の腐食が進行しなければ、そして、シロアリが侵入しなければ、あるいは、雨水が浸入しなければ、実際の問題として認識されることはないでしょう。
それは、新築竣工の段階では、ほとんど気付かれないということでもあります。
特に、基礎横の地面が基礎底盤より高く、打継ぎ部が地面の下になってしまうようなところは、工事の段階でどのような打継ぎ部の止水、そして、基礎外側の防水を施してあるのか、それを施工者に確認しておくのが良いと思います。
「そんなところから水は入らない。そんな話は聞いたことがない・・・」というような、自称プロの自信たっぷりな書き込みがあるかもしれませんが、そうした経験論的な発言は疑ってみるべきではないでしょうか?
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