新築の内覧会・・・真新しい玄関前での挨拶もそこそこに、依頼者様、売手側関係者、施工者、ぞろぞろと皆さん上履きに履き替えて、室内に入って行きます。
で、この時、今靴を脱いだ床のタイルのことなど、まずどなたも気にされません。
そしてさっそく、ぴかぴかのLDKで、売手側の担当が、ちょっと晴れやかに説明を始めます。
いつもの「内覧会」はじまりの風景・・・
さてこちらは、ひとり玄関に残って、皆さんの靴をよけながら、打診棒で床タイルの表面を撫でてゆきます。
そのタイル面では、多くは同質の音、ちゃんと裏面が充填された音、が続きます。
しかし時に、突然、乾いた音・・・
明らかに他と異なる音、間接的ながら、それは「空洞音」と言っていいでしょう。
「異音あり」・・・
目視の検査が主となる住宅診断で、このタイル打診検査だけは、「音」による間接的な診断です。
一枚の「異音」もない玄関、がある一方、あちこち「異音」の出る玄関、この検査は結果がさまざまです。
目次
はじめに、玄関を扱ったこれまでのコラムの記事ご紹介
このコラムでは、これまで住宅の玄関についていくつかのテーマを扱ってきました。たとえば、「玄関の断熱」について・・・
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玄関土間の断熱は不要・・・でいいの?~新築内覧会で玄関の足回りについて考えたこと
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あるいは、少し前になりますが、「玄関まわりの動線」について・・・
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今回も、こうした「玄関」関連のテーマですが、対象範囲を「玄関の床タイル」にほぼ絞ってお話ししたいと思います。
打診検査の指摘「異音あり」~その指摘に対する反応・対応はさまざま
戸建住宅の内覧会では、住宅の内外仕上げ、さらに小屋裏・床下などを数時間のうちに観察する必要があるので、玄関の床タイルについては、その表面を「打診棒」で撫でる方法で簡潔に検査します。
簡潔な方法ですが、見ることができないタイル裏面の状況を、音によって知ることができます。
どなたでも感じることができるのですが、裏面が充填された感じの比較的重い音がほとんどですが、それと異なる「乾いた」感じの音がする場合があります。後者の場合、「異音あり」として、指摘シートに記録します。
内覧会の終わりに、指摘事項をシートにまとめるのですが、たとえば、「玄関床(内・外):異音あり、○箇所」などと記録されます。
この「異音あり」という指摘は、タイルの不具合事象そのものではなく、異音という事実のみを示すもので、「浮き」の可能性が考えられるものの、実際のタイル裏面がどの程度の空洞(すき間)なのか、については明示できません。
タイル表面の「割れ」や「欠け」であれば、誰でも分かるので、もし指摘があれば施工会社は是正をするでしょうけれど、この「異音」については、次のA、B、Cに示すような、各社の対応が分かれるのが実態です。
A.【貼り替えません】という対応
もちろん、こんな直接的にきつい言い方は、どこもしませんが、結論的には「今回ただちに是正はしません」という対応です。
次の引用文は、ある依頼者様からいただいたメールです。この住宅では、内覧会の途中で売手側担当者は帰社してしまい、診断終了後に別の若手営業マンがこちらで作成した「指摘シート」を受け取って、後日その返事、という進め方でした。後日、依頼者様からのメールに、その返事の内容が記されていました。
・・・ご指摘いただいた項目のほとんどは是正してもらえることになり、(中略)、ただし、玄関床タイルの異音については、施工上どうしても空気が入り込むことがあり、貼りなおしても完全な是正は難しく、万一割れ等があれば補修で対応するということになりました。(以下略)(原文メール、改行省略、一部補足、太字化N研)
つまり、タイル裏には「施工上どうしても空気が入り込むことがある」ので、内覧会の結果としては、ただちに補修・是正はしません、ということでした。
B.【貼り替えます】という対応
一方、別の内覧会では、最後まで立ち会った工事責任者が、玄関外部・内部の床タイルの異音部について、自らタイル床面を調べた上で、
この屋外の2か所については、タイル貼りかえにて対応します。(当日の会話から。さらに書面でもその旨記載して提出あり)
と、即答されました。
依頼者様(住宅の発注者様)からすれば、その現場の施工責任者が、自ら調べて即答されたことで、安心されたことでしょう。
C.【いったん持ち帰ります】という対応
さらに別の内覧会では、売手側がいったん「異音あり」の指摘事項を持ち帰ってから、後日依頼者様に連絡があり、次のようなメールをいただきました。
・・・先日指摘いただいた、玄関床の異音部については対応していただけるとのことです。(以下略)(原文メール、太字化N研)
こうした、「いったん持ち帰ります」というのが、感覚的には多いように感じます。
タイル検査と「浮き」:床と壁 ~「割れ」のリスクと「剥落」のリスクに対する危機意識の差
ここで、この「打音検査(打診検査)」について、少しだけ考えてみましょう。
外装がタイル貼りのマンションを多く見かけますが、新築マンションの「タイル検査」と言うと、主に垂直の面、壁や梁型に貼られたタイルの「付着の検査」がポイントとなります。
付着の検査では、「打診音による浮きの検査」と、「引張試験による接着強度試験」があります。
打音検査
打音検査では、打診棒を使用して、タイル全面に渡って表面をたたき、発する音の差でタイルの浮きがないかを検査します。浮きがない場合は重い音、浮きがある場合は軽い音がします。
引張試験
引張試験は、タイルの接着力を測るために、専用の試験機を施工したタイル面に取り付けて検査します。
タイルの周囲の目地に、コンクリートまでの切り込みを入れ、タイルを引っ張り、タイルが剥がれた時点で引張り強度を測定し、規定の強度以上の数値が出ると合格になります。(公共建築工事標準仕様書では、引張接着強度は0.4N/mm2以上です。)
なぜこのように徹底するかと言うと、将来、外壁のタイルが剥落(剥がれて落下)して、もしその下を人が歩いていたら、場合によっては大きな事故にならないとも限らないからです。
壁面タイルでは、異音は明らかなリスク・・・そう捉えるのが一般的です。「空気が入るのは仕方ない」などと言い訳するような施工会社(ゼネコンなど)は、まずないでしょう。
一方、床タイルの異音は、将来の割れや剥がれの可能性があるというだけで、落下して人を傷付けるようなことはまずありません。
床タイルでは、異音はリスクと捉える住宅会社と、そうでない住宅会社があります。それが、先ほどの各社対応の違いとなるのでしょう。
「貼り替えません。もし割れたらその時対応します」というような答えには、音がするのは仕方ない、くらいに考えているという感じがします。
確かに、普通にその上を人が歩行する程度で、タイルが割れるということは少ないかも知れません。しかし、数年後に玄関タイルが割れたり、欠けたりした時、「もし割れたらその時対応します」と言った会社は、本当に無償で補修してくれるのでしょうか?無償の期間についての取り決めはあったのでしょうか。
「もう保証期間を過ぎているので、有償補修とさせていただきます」あるいは「経年劣化による剥離ということも考えられますので・・・」
アフターサービスの会社の担当は、内覧会で答えた担当とは別人ですから、引渡し書類に床タイルの保証について明記されていないかぎり、こう答えるでしょうから、内覧会の指摘とそれに対する無償補修の回答を、記録として残しておくことが大切ではないでしょうか。
異音のない床タイルをめざして
まず、床タイル張りの基本から
最近の玄関床タイルは以前より大きくなってきていて、30センチ角くらいのものが一般的になってきました。そこに打診棒を当ててみると、異音の有無は簡単に分かります。
床タイルの多くは、玄関土間のコンクリートの上に、水分比率の低いモルタル(バサモルタル)で平らな下地を作り、そこに張付け用モルタルを塗り、そこにタイルを張ってできあがっています。
「空気が入りこむことがある」という言い方は、そのタイルの裏側に「空洞が生じる可能性がある」ということでしょう。それを「施工上避けられないこと」と言ってよいのかどうか。
その話の前に、ここではまず、住宅玄関のような床タイルについて、施工上注意すべきポイントを、図示してみましょう。
このように、床タイルの打音検査での「異音」は、タイルを張付けるモルタルの充填だけでなく、タイルの下地の不良をなくすように配慮することも必要です。
現場の責任者は、玄関床を施工業者から受け取る際に、タイル面の外観検査(割れ、欠け、平滑さ、目地の状態など)は行うでしょうから、その時に打音検査を行うようにすれば、内覧会で指摘されて「空気が多少入るのは仕方ない」などと苦しい言い訳をせずに済むのではないでしょうか。
「異音あり」~床タイルの指摘の悩ましさ
マンションなどの壁面のタイル面とは異なり、戸建て住宅の玄関やポーチの床タイルは、その面積が小さいこと、そして、剥落などによる対人の危害の恐れが少ないことなどから、住宅会社は、あまりタイルの「浮き」に対して重きを置いていないように感じます。
もちろん、大手のハウスメーカーなどで、完成時の社内検査で打音検査を行っているところもあるようですが、多くの会社では行っていません。そのため、内覧会で「異音あり」と指摘されてはじめて、そのことに気付くというのが実態です。
しかし、どの住宅会社も、竣工前の社内検査で、各室の床・壁・天井の表面については、外観検査として、かなり詳しく確認しているのに、打音検査に手間を割かないのは残念な気がします。
さらに言えば、訳知りの「自称プロ」が、ネット上で「床タイルで空洞音が多少あるのは問題ない」などと匿名で書いているのも、どうかなと思います。
一般の方は、そのように自信ありげに言われれば、「空気が多少入るのは仕方ない」と言われるのと同様、そのようなものかと信用してしまうでしょうから。
確かに、空洞音があっても、ごく普通にその上を歩く程度であれば、この先、そのタイルがひび割れることはあまりないのかも知れません。しかし、しっかり充填されたタイルに比べれば、何らかの理由でひび割れたり欠けたりする可能性もないとは言えません。
繰り返しになりますが、悩ましいのは、「異音あり」は直接的な不具合の指摘ではなく、あくまで間接的な指摘に過ぎません。しかし、間接的ではあっても、タイルの「浮き」のチェックとして打音検査はひとつの手段です。マンションなどの外壁面では、張り直しの対象です。
現実問題として、戸建て住宅の玄関のように小面積のタイル張りのところを、他にも何軒もの担当物件を抱えている現場監督が、下地処理から仕上げまでに立ち会うのは無理でしょう。だからこそ、外観検査と同時に、間接的ではあっても「打音検査を行った上で引き取る」というふうにしておけば良いのに、と思いますがいかがでしょうか。
「異音あり」
この指摘に対する、その会社の対応は、その提供する住宅の「品質」への姿勢の一端を示すものではないでしょうか。
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