内覧会で依頼者様と待ち合わせるのは、戸建ての場合、多くは住宅の玄関の前。
マンションの場合はエントランス付近で待ち合わせて、そこから住戸の玄関へ。
実務的には、まず外部を拝見してから室内に、というパターンが多いのですが、どうでしょうか、多くの依頼者様にとっては、室内の各所こそが内覧会では最大の関心事、ではないでしょうか。
内覧会当日、依頼主様の頭の中は、室内各所についての心配事でいっぱいで、玄関は通過点に過ぎなくなっているようで・・・
玄関扉を開けたら、用意されている上履きに履き替えて、そそくさとお目当ての室内へ、と。
まあまあ、落ち着いて・・・
目次
はじめに、玄関の床をめぐる内覧会でのできごと・・・から
玄関の床タイルについて、ある内覧会で
・・・安心して内覧会を終えることができました。(略)玄関の異音部については対応してもらえることになりました。(原文手書き、太字N研)
これは、診断後のアンケートの自由記入欄のほんの一部ですが、内覧会当日、玄関床についての指摘の処置について、ご依頼者A様から連絡いただいた箇所です。
話が前後しますが、ちょうどこの少し前にも、別の住宅(B様邸)の内覧会で、玄関前ポーチ部分の打音検査で局所的に乾いた音がして指摘したことがありました。その内覧会では、立会いに来られていた施工会社の担当の方に、その旨を伝えたところ、その方自身でも調べてみた上で、
・・・ここは貼り替えましょう。
そう即断されました。持ち帰って検討させてください、とか、しばらく様子を見ましょう、などとうやむやにせず、明確に即断された姿勢は、好感が持てました。
後日B様から、その担当の方から提出された、処置結果のリストの写しを送っていただきました。対応のしっかりした会社で良かったですね、そうお伝えしました。
そこでA様に、同じような床タイルの指摘に、このように対応された会社もありますよ、と参考に申し上げました。そして最初のような連絡をいただきました。やはり、他社の姿勢や対応というのは、気になるのでしょうね。
ところで、これらの新築住宅を前にした時、それぞれの玄関にきれいに貼られた床タイルに、そうしたことが潜んでいるなどとは、おそらくA様もB様も、思いもよらなかったのではないでしょうか。
異音がします、他と異なる乾いた音がします、などと言われても、それが何か?と思われるかも知れませんね。タイルの下にわずかな空隙がある可能性があり、将来、割れや剥がれが生じないとも言えません。そうした懸念です。
なお、打診棒による打音検査は、あくまで非破壊の検査ですので、「異音」と言っても、それがどの程度の不具合なのか、不具合とまでは言えないものなのかまでは判断できません。
そのため、「とりあえず経過観察」のようなところに落ち着いてしまうこともあります。
玄関の床診断、ワンポイント
新築住宅、とりわけ戸建ての内覧会では、意外に多くの関係者が集まることもあります。たとえば・・・
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そのため、戸建ての玄関はその出席者の靴がずらりと並んでしまうことがあります。
さらに、その玄関の床タイルがビニールシートなどで養生(カバー)されていて、さらにその周囲がテープで留められていることがあります。
正式な引渡しまでは床のタイルを汚されないための保護シートですが、床タイルを打診棒で検査する際には、このシートはいったん外してもらいましょう。
シートの上からでは、打診棒の感触はうまく伝わってきませんので。
玄関まわりの「計画」について
ここまでは、ある新築戸建ての内覧会での話題と、関連してワンポイントのご紹介でした。
診断実務では、住宅の玄関をめぐっては、新築・中古あるいは戸建て・マンションそれぞれについて、観察するポイントがあります。よく住宅診断事務所などがサイトで紹介していますね。
私たちは、内覧会や住宅診断で、いろいろな住宅の玄関を拝見する機会が多くあります。
玄関まわりの計画①玄関からの動線上に、洗面(手洗い)ポイントを置く
衛生意識の高まりが玄関動線にもたらしたもの
このところ世間は、ようやくコロナ禍によるダメージから、次第に回復しつつあります。ただし、ウィズ・コロナを前提とした回復であって、決してコロナ以前に戻ったわけではありませんね。
コロナ禍によって高まった衛生意識は、住宅の計画にも一定の影響を与えました。
端的にそれが表れたのが、玄関付近、あるいは玄関から生活空間に移動する動線上に洗面(手洗い)ポイントを配置するという考え方でした。
当コラム(ブロク)でも、以前そうした観点から扱ったものがあります。
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その中で、玄関からの動線については、「衛生意識の高まりと住まい」の章でお話ししました。
玄関まわりの計画②汚れを玄関で止めるために、玄関収納を充実させる
動線による玄関収納の分類:ウオークイン・タイプとウオークスルー・タイプ
上でご紹介した以前のコラムでは「玄関収納の充実」にも触れました。ここではさらに、この点を少し詳しくお話しましょう。
最近では、この「玄関収納」のことを、SC(シューズクローク/クローゼット)とか、SIC(シューズインクローク/クローゼット)と呼ぶようになり、住宅の図面にもSCとかSICと記されるようになりましたね。(以下、このコラムでもSICと表記することにしましょう)
すでにご存じの方も多いと思いますが、「①玄関付近に設けられて、②靴を履いたまま出入りできる」収納スペースのことです。従って、下足箱(シューズボックス)とは②が異なりますね。
このSICには、(1)ウオークイン・タイプと、(2)ウオークスルー・タイプのふたつがあります。
両者を見てすぐ分かるのは、(1)は出入口が一箇所なのに対し、(2)には出入口が二箇所あり、通り抜けられるという差ですが、それだけでなく、次のような大きな違いがあります。
(1)ウオークイン・タイプSICは、「玄関横の土間続きの倉庫」であり、荷物をSICに入れた後、玄関に戻り、靴を脱いでホールに上がります。
玄関の上り框(あがりかまち=玄関とホールの段差に設ける横材)は一箇所で、来客も家族も同じ動線です。
このタイプでは、日常的に使う下足箱はSIC内でなく玄関横に別に置くという例が多いです。また、(2)のように倉庫内に通路を確保する必要がないので、収納力はそれだけ高いです。
(2)ウオークスルー・タイプSICは、「玄関横の通り抜けられる倉庫」であり、そこからそのまま靴を脱いで室内に入ることができます。
いわばそこがセカンド玄関とも言えます。玄関の上り框に向かう来客動線と、SIC内を通る家族用動線とができるので、上り框もふたつに分かれます。
このタイプでは、SIC内で靴を脱いで上がるので、下足箱はSICの中に設置し、玄関には置かないことが多いです。
SIC収納棚の配置方法による分類:4つの型(Ⅰ型、Ⅱ型、L型、U型)
さらに、このふたつは、収納棚の配置方法によって、図のような4つの型(Ⅰ型、Ⅱ型、L型、U型)に大きく分けられます。それぞれの囲み全体がSICを表わし、着色されたところが収納棚です。
あれ、この図、見たことあるな・・・という方も多いかも知れませんね。
これは、玄関に限らず室内の収納(クローゼット)の分類にも使われますし、キッチンのレイアウトを考える場合にも使われますので、そちらでも見られたかも知れませんね。
なお、ここでは収納棚の配置によって分類していますが、これは説明上の便宜的なもの、とも言えます。
たとえば、何型だからと言って、すべてが棚とも限らず限らず、たとえば一方を可動棚、他方を枕棚とハンガーパイプという組み合わせもありますね。可動棚の棚下を大きく開けて大ものを入れることもありますね。また、棚と言っても、奥行きの違いもあり、可動のものや固定のものもありますね。
SIC出入口の扉について
次に、SICに設ける扉の種類ですが、引戸、開き戸、折り戸、スイング戸(前後に開く扉)、扉なし(化粧枠のみ)などさまざまな例が見られます。
引戸は比較的無難ですが、引きしろを確保できない場合などは他の扉となります。その場合、開閉のためのスペースが必要になります。
SICのメリットと注意点
玄関脇に収納ができるSICの大きなメリットは、靴や傘、タイヤ付きのスーツケース、場合によってはベビーカーなど、外の汚れを玄関に留めて、室内に持ち込ませない点にあります。スノーボードや折り畳みの自転車かなりの大もので、従来は屋外設置の物入れや、トランクルームに頼っていたものまで収納できる可能性もあります。
ただし、そのように、屋外から持ち込むものを収納するので、一般の収納(納戸やクローゼット)以上に湿気を持ち込む可能性が高く、また、臭いにも気をつける必要があります。
多くの場合、入口の扉にはアンダーカット(扉下の隙間)が設けられているので、換気扇があれば理想的ですが、そうでない場合は、給気口や小窓を設けた上、アンダーカットを通して空気の流れを確保しておきたいですね。
玄関収納(SIC)のタイプ(1)ウオークイン・タイプのSIC
それではまとめにかえて、SICをタイプ別に見てみましょう。
よく収納ノウハウのサイトなどに、収納状況の写真とともに説明されていることも多いので、雰囲気はご存じの方も多いかも知れません。
玄関と収納部の実際の構成は、ほとんど無数にあるので、ほんの一部のご紹介になってしまいますが、タイプごとに、玄関とホールとの関係やSICの面積なども示してみました。
なお、内覧会でよく拝見するような一般的な規模の住宅の玄関部分を集めてありますので、玄関や収納部を特に広く取ってあるようなものは含んでいません。
それではまず、ウオークイン・タイプから。
ウオークイン・タイプのⅠ型
図は戸建てとマンション、それぞれの例です。どちらも面積1帖以下とコンパクトで、たまたまですが、2例とも平面に似たような制約(配管スペースなど)があり、矩形の片隅を欠いていますね。
Ⅰ型に限らず、ウオークイン・タイプSICでは、収納部と別に、玄関土間に下足箱を置く例が多いです。
ウオークイン・タイプのⅡ型
収納室の扉を開けると両側に棚、というⅡ型のコンパクトな例ですね。
ウオークイン・タイプでは、靴を脱ぐのがSICの外になるので、ここでも下足箱はSICとは別に置かれていますね。
ウオークイン・タイプのL型とU型
L型とU型の例ですが、面積はやや前の型より広めです。
上の図は同スケールですが、同じウオークイン・タイプでも、収納部手前の玄関部分はマンションの方がやはりコンパクトに計画されていて、この例ではウオークイン・タイプながら「外出し」の下足箱は置かないようです。
玄関収納(SIC)のタイプ(2)ウオークスルー・タイプのSIC
次にウオークスルー・タイプですが、SICの外形(平面形)と、玄関側とホール側のふたつの出入口の位置関係、そして収納棚の配置に着目してみましょう。
ウオークスルー・タイプのⅠ型とⅡ型
玄関から土間続きのSIC内に上り框があり、ここから室内に上がります。
ウオールスルー・タイプでは、SICの入口に扉を設ける場合と、扉を設けず枠のみでゆるやかに区切る場合とがあります。
このタイプでは、SIC自体がいわばセカンド玄関で、家族の玄関動線がとなるので、扉を設けないというのもひとつの考え方です。この場合、収納部分が見えにくい入口位置としたいですね。
ウオークスルー・タイプのL型
図は、ウオークスルーとしては比較的コンパクトな例です。
この例では、面積がコンパクトなこともあり、SIC内床は全面土間として、ホール側(室内側)には扉を設けず、ここを上り框としています。
ウオークスルー・タイプの変形U型(L+Ⅰ型)
これはやや収納重視玄関の例です。
ウオークスルーでは、出入口二箇所なので、完全なU型にはなりませんが、L型にⅠ型を組み合わせたかたちですね。土間レベルの収納棚と室内床レベルの棚を使い分けることができますね。
玄関収納(SIC)まとめ
以上見てきたように、ウオークイン・タイプSICでは、「玄関土間~SIC」だけで成立するのに対して、ウオークスルー・タイプSICは、出入口が2箇所で、通り抜けられる必要があるので、「玄関土間~SIC~ホール」の三者がつながっている必要があるという違いがあります。
ウオークスルー・タイプは、玄関土間とSICそれぞれにホール(廊下)が必要になるので、その分面積を取られてしまいますが、それは家族用の玄関動線を生むためのものです。
ウオークスルーSICとは通り抜けられるSIC。
「備蓄倉庫」の容積緩和~SICに適用可能か?
ここで話題を変えて、「倉庫としてのSIC」が住宅の延べ床面積に影響する、ということに触れてみましょう。
住宅を計画する際に、特に都市部などでは、限られた敷地の面積に対して、容積率制限いっぱいの床面積の住宅を建てようとします。その時、法的に認められるように、容積緩和を受けようとしますね。
たとえば、「ビルトイン車庫(住宅の1階の一部を車庫とする)」は延べ床面積の1/5まで緩和(容積率算定に不参入)されますが、それ以外に「備蓄倉庫」は1/50まで緩和可能です。
SICは玄関脇に設けられた「倉庫」です。ある内覧会で拝見したSICは、「備蓄倉庫」として容積緩和を受けていました。
そこで、容積緩和が受けられる「備蓄倉庫」についてまとめておきましょう。
ここで言う「備蓄倉庫」とは「専ら防災のために設ける備蓄倉庫の用途に供する部分」である点に注意しましょう。もう少し詳しくは、次のようです。
「非常用食糧、応急救助物資等を備蓄するための防災専用の倉庫であり、利用者に見えやすい位置に当該倉庫である旨の表示されているもの」で、「壁で囲われた専用室であることを原則とする」とされています。(建築基準法施行令の一部を改正する政令等の施行について(技術的助言)平成24年9月27日)
実はこの「専ら防災のために設ける備蓄倉庫」というところの解釈が微妙で、建築確認の申請先である行政庁や確認検査機関の判断によるところが大きいです。
ある市の取扱い規定では、緩和の対象となるには、日用品の収納など防災備蓄倉庫以外の用途に使われないようにと「注意」をしています。
玄関まわりについての「見えないところ」の課題
お話が長くなってしまったので、今回はここまでにしますが、住宅の玄関をめぐる話題にはまだ続きがあります。
たとえば、玄関まわりの「見えないところ」。
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