今回はタイトルのように、床下進入診断のお話しです。
本題に入る前に、あるご質問と、依頼者様からの「声」をご紹介して、そのあと、床下に進入してまいります。
目次
はじめに(あるご質問と、依頼者様の「声」から)
あるご質問から
私たちN研(中尾建築研究室)への診断お問い合わせのやり取りの中で、こんなご質問がありました。
・・・ウェブの情報サイトを見ると、「完成済物件は、住宅診断士に見てもらっても意味がない」とまで書かれている場合もあります。(中略)ご意見をお聞かせいただけますと幸いです。(原文メール、改行等省略、太字化N研)
どうやらこの方、この「意味がない」というサイト情報が気になって、内覧会の同行サービスを依頼しようかどうか、ずっと逡巡されて、いくつかの診断事務所にこうした問いかけをしているうちに、本番の内覧会の数日前になってしまったようでした。
これは、いわゆるインスペクション不要論者の書き込みを読まれてのご質問のようです。こうした書き込みを、診断する側にぶつけて来るのも、なかなかのものと、むしろ感心してしまいましたけれど。
どういう根拠で「意味がない」と主張するのか、その内容までは知らされなかったので、何とも言えません。ひょっとしたら、傾聴に値するような具体的体験にもとづいての主張かも知れません。
しかし匿名的な書き込みは、ご存じのようにまさに玉石混淆ですから、こうした「意味がない」という意見ばかりを気にし過ぎるのもいかがなものか、と思います。
そうした匿名の書き込みは参考までに止めて、むしろ記名ないし出所の確かな意見・感想・記事を読まれてはいかがでしょうか。たとえば・・・
ある依頼者様からのお礼メール
次は、私たちN研(中尾建築研究室)への、内覧会後のお礼のメールです。最近のものです。
先日は大変ご丁寧なインスペクションありがとうございました。大変感謝しております。妻も家の出来栄えに不安を持っていましたが、インスペクションとその後の質疑応答で大分安心できたようです。(先日お送り頂いた軒のリンクも大変勉強になりました。北側の床下と含め、今後住んで気をつけるポイントが分かるだけでも安心材料になります。)(以下略)(原文メール、改行等省略、太字化N研)
「意味がない」と断定的に書き込む匿名人がいる一方、このように診断実施後に具体的にお話をいただける依頼者様。
よくある「ご希望」から
さて、以前にも何度かお話ししましたが、内覧会のお問い合わせやお申し込みでは、たとえば、
ホームインスペクションの可否の確認と、見積をお願いいたします。天井裏進入調査および床下進入調査もお願いしたいです。(原文メール、改行等省略、太字化N研)
と、いったご希望が圧倒的に多いです。
図面を拝見して、小屋裏(屋根裏)に入るための天井点検口、1階の床下収蔵庫を兼ねた床下点検口が記載されていれば、どちらもまず進入可能です。
ただし、特に都市部などの3階建て戸建てでは、屋根裏の容量が小さかったり、陸屋根(フラット・ルーフ)で屋根裏がほとんどなかったりして、天井点検口が設けられていない例もあります。
このような場合は、結果的に床下進入調査のみになってしまう場合もあります。
さらに、
屋根裏進入と床下進入を行わない場合、目視できる範囲は限られてくるかと思います。それでも検査をお願いする意味はありますでしょうか?(原文メール、改行等省略、太字化N研)
と、質問された方もいらっしゃいましたが、進入できなくても点検口から覗いての観察は行います。今回ご紹介する事例にも、点検口から覗いただけで見つけられた内容も含まれています。
新築戸建て、内覧会で床下に進入・観察
新築戸建て、床下のイメージ
床下進入調査・・・と言われても、一般の方はまず入ったことがなく、なかなかイメージしづらいのではないでしょうか。そもそも、何か「きたなそう」というような拒否感をお持ちかも知れませんね。
しかし、新築住宅では床下と言っても、そこは土ではなくコンクリート面がほとんどなので、簡易な防塵服程度を纏ってマスクを着用すれば、それほど汚れることもありません。たとえば・・・
最近の新築戸建て住宅では、基礎はベタ基礎が圧倒的に多く、1階の床は大引き(おおびき=床を支える横材)を鋼製束で支えていて、床下有効高さも確保されている場合が多いので、進入・移動はおおむね容易な場合が多いです。
いったん床下に入ってしまえば、意外と「へー、なるほど」と、お感じになるかもしれません。
新築床下を観察
では、さっそく・・・次の図と写真は、新築床下でいちばんオーソドックスな、ベタ基礎、床下断熱の場合の一般的なチェックポイント例です。
床下移動の際に注意したいのは、コンクリートの土間上に設置されている配管類の上を横断する際に、配管を避けること。配管類が錯綜しているところは、できるだけ迂回するようにすることです。
工事の順序として、実際の現場では一般に、基礎(コンクリート)→配管(給排水管等)→土台・大引き(木の横材)→床断熱材→床下(合板)のように出来上がっていきます。
床板で塞がれて、暗闇の「床下」が出来上がるわけです。
できれば、「基礎伏図(きそぶせず)」(構造図面)で基礎壁の位置を把握した上で、「1階給排水設備図」(設備図面)で配管の錯綜している部分、径の太い排水管などの場所を確認しておいて、おおよその「床下移動ルート」を事前に想定しておくと効率的です。
新築床下でよくある不具合について、いくつか
さてそれでは、新築床下の不具合事例ですが、まず床下断熱の場合の「断熱材の外れ」の問題から・・・
床下断熱材の外れ
床断熱については、のちほど説明しますが、まずは下の事例写真をご覧になってください。
これらの原因はいろいろあるのでしょうけれど、たとえば床下で給排水設備の作業が終わった際などに、断熱材も確認するというような現場ルールが出来ていれば、かなり避けられるでしょう。
何より、床下断熱材が外れた状態で内覧会を開くというのは、住宅の売手側の誰も床下の確認をしていないことを如実に示すもので、敢えてきつい言い方をすれば、現場の責任者(監督)や、発注側の管理者の怠慢と言われても仕方ないのではないでしょうか。
いわゆる大手不動産会社の分譲住宅でさえも、現場によっては、床下でこうした不具合が見られることがあります。
床下の清掃状況(木クズ等の残置)
それに次いで多いのが、木クズをはじめとする残材等の未清掃です。
これは一般には住宅の売手側の企業姿勢、モラルの問題として済まされそうですが、木クズなどはシロアリのエサともなりかねないので、撤去・清掃が望ましいです。
配管まわりの少し込み入った箇所や基礎隅部などに集まっている場合がありますし、断熱材を切り取るように加工したまわりなど、すべての床下作業が終わった後に、現場責任者が確認し、必要に応じて清掃を指示すべきでしょう。
そしてまた、インスペクション不要論者は、自分で床下の清掃状況など確認できるのでインスペクションなど「意味がない」と主張するのかもしれませんね。
あるいは、しっかりした施工会社の住宅ばかりを見てきたからなのかもしれませんね。
工事用水抜き穴の処理
工事用の水抜き穴とは、ベタ基礎の工事中に雨が降ったりした場合、基礎内部に水が溜まらないように、あらかじめ基礎の床レベルに開けた穴のことです。丸断面や角断面のパイプがあります。
べた基礎の基礎底盤には、水抜き孔を設置する。(住宅金融支援機構「木造住宅工事仕様書」)
なお、当該水抜き孔は工事完了後にふさぐ。(同)
この穴は、一般には基礎の外部をモルタルで仕上げる際に塞ぐ場合が多く、竣工時には外部からは穴は見えません。
問題はこの塞ぎ方で、基礎仕上げのモルタルのみ、というのは問題があります。モルタルのみでは、モルタルがひび割れた場合、シロアリの侵入路となる恐れがあるからです。
ここは施工会社ごとに考え方が異なる点ですが、しっかりした会社では防蟻性のある材料で、穴を充填しています。
また、水抜き穴だけでなく、コンクリート躯体を貫通する給水管まわりなども、そのスキ間を塞ぐことが大切です。
水抜穴を住宅の外側から見ると次の写真左ふたつのような感じです。
写真左ふたつは基礎外部をモルタルなどで仕上げる前の状態ですが、外部を仕上げる際に穴に充填するとして、実際はどのくらい充填されているでしょうか。
内覧会などでよく見かける完成後の基礎は、写真右(イメージ)のようにきれいに仕上がっているので、水抜き穴がどこにあったのかさえ分かりませんが、充填が不足していれば、将来ひび割れた場合、そこが防水上も、防蟻上も弱点となってしまいます。
床の断熱について、おさらいと観察
さてここで、はじめの断熱材の問題に関して、以前お話しした内容の復習も兼ねて、見ておきましょう。ご存じの方は、飛ばしていただいて結構です。
はじめに「床断熱と基礎断熱」、それを受けて「浴室床下の断熱」のお話をします。視覚重視でまいります。
床断熱と基礎断熱
床断熱
まず、ここまでのお話でほぼイメージしてきたのは、次のような「床断熱」でした。
床の下に断熱材を敷き、その床から下は屋外という考え方で、そのため先ほどのような「床下断熱材の外れ・落下」のような不具合が時に見られました。
また、この断熱方法は「床下は屋外」という前提なので、床下と屋外の空気の入替えが必要になります。そこで、建物外周の基礎上・土台下に「通気パッキン」を入れて通気性を確保しています。かつては基礎のところどころに床下換気口を設けましたが、今ではほとんどこの通気方法です。
基礎断熱
この床断熱に対して、「基礎断熱」という方法があります。
これは、「床下も室内」という考え方です。しがって、外周の基礎上・土台下は「気密パッキン」として、外気が入らないようにします。
この考え方は、床のコンクリート土間には断熱材を貼らないことも多く、地熱とコンクリートの蓄熱を利用するという考え方に立っています。
ただし、室内と床下には1階の床板があるので、多くの場合、この床下に対して換気を行います。
この場合の床下換気は、外気との換気ではなく、1階の室内の空気を送り込んで、床下からそれを外部に排気することになります。
浴室床下の断熱(浴室の床断熱と基礎断熱)
少し回りくどくなりましたが、以上のような、床断熱と基礎断熱の知識を前提にして、浴室(ユニット・バス=UB)の床下の断熱方法について見てゆくことにしましょう。
床断熱のUB
まず「床断熱のUB」についてです。
これはUBの床パネル自体に断熱性能がある、というものです。従って、UBの床下空間は外気と同じになります。
ほかの部屋の床が床断熱で、UB床も断熱されている場合は、その住宅全部の床下が屋外となります。(玄関土間などは除きます)
UB床を床断熱とする場合の注意点は、図に示すように、UBの断熱床部分や浴槽下の断熱部分の先端に気流止めを入れて、床下の外気が入ってこないように処置しておくことです。
たとえば冬場では、冷気が床下から室内側に回り込まないようにするということですね。
この方法では、UBのコストは一般にアップしますが、床下の基礎部分に断熱材を貼る(打ち込む)必要がなく、UB下に断熱性のある点検口を設ける必要もないので、床下配管類の点検が比較的容易です。
基礎断熱のUB
こうした床断熱のUBに対して、「基礎断熱のUB」があります。
基礎断熱ですから、浴室内と浴室下が温度的には一体、床下も浴室の一部、というわけです。そのため、浴室床下周囲の基礎には断熱材が貼られ(打ち込まれ)ます。
浴室下周囲の断熱材は、外壁の断熱材や床下断熱材(床断熱の場合)に連続している必要があります。
また、外気がUB床下に入らないように、基礎と土台の間は気密パッキンとします。
UB下基礎断熱の場合、基礎四周の断熱材の一部に断熱点検口を設けておいて、そこから進入して、UB下の配管類の点検を行います。
断熱材を切り取って、それをはめ込んで点検口としている場合が多いですが、専用の断熱点検口も製品化されています。
注意したいのは、UB床下への配管類を、基礎壁に貫通させずに、この点検口のところに通してしまう例です。これはおそらく、基礎コンクリートの段階で、基礎壁に配管用のスリーブ(パイプ)を入れなかったために、点検口の開口のところに通してしまったためでしょう。
この場合、あとから断熱材で開口を塞ごうとしても、完全に塞ぐことはできないので、基礎断熱なのにUB床下に外気が流入してしまいます。
こうしたミスを避けるには、基礎工事の段階で、そのUBが基礎断熱なのか、床断熱なのかを確認しておく必要があります。基礎工事でのチェックポイントですね。
さて、こうして床下に進入して、静寂の中で、床下頭上の断熱材や、土間床の塵埃、浴室(UB)床下の断熱などを見てきました。
次に、基礎のコンクリート立上りについて見てみましょう。
第二部はこちらです。
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内覧会、見えない「基礎」の基礎的知識 ~ 新築の床下(その2)
暮らしを静かに支える「床下」、それを形成する「基礎」、今回はこれらに注目してみましょう 前回は、内覧会、静寂の床下をゆく ~ 新築の床下(その1)のタイトルで、床下進入調査でよく見かける ...
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第一部のおわりに ~ 内覧会で診断を依頼することは、本当に「意味がない」ことなのか、について
冒頭、「完成済物件は、住宅診断士に見てもらっても意味がない」という、お問い合わせ時のご質問を紹介しました。
それもひとつの意見ですから、診断の依頼を見合わせる、というのもひとつの選択肢かもしれません。
ただし、その書き込みの投稿者が、いったいどのような経験から「意味がない」と言うのか、よく吟味した方が良いかも知れません。たとえばそれが「診断を受ける側」の人間、つまり「住宅の供給側(売手、施工側)」の人間の書き込みだったらどうでしょうか?
そして、最初に引用した、診断依頼者様の実際のご感想などとも読み比べてみてはいかがでしょうか。
「いやそれは我田引水、ヤラセじゃないの」というような声が聞こえてきそうですが、少なくとも私どもN研(中尾建築研究室)の「お客様の声」は依頼者様の生の声です。
そのために、かなりのページを使って、その背景や状況をご説明しています。時に、お問い合わせメールでのやり取りの内容やアンケートの自由記入欄など、プライバシーには充分配慮した上で、引用させていただいています。
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