目次
1.家計にやさしい「省エネ住宅」:まずは「論より、メリット」
今回は「省エネ住宅」を取り上げてみましょう。
そうした観点から「省エネ住宅」を見てみましょう。
「省エネ住宅」と言っても、いきなり省エネのしくみや基準から始めようとすると、イヤになって挫折したりします。
ちなみに、住宅の「省エネ基準」というと、住宅の「外皮性能」と「一次エネルギー消費量」で評価する・・・などと言うのが出てきますが、ここではひとまず置いておきましょう。
まずは、「省エネ住宅は、どのようにおトクなのか」を知りましょう。「論より、メリット」ですね。
どのようにおトクかを知ると、がぜん「省エネ住宅」そのものに興味が湧いてくると思いますよ。
家計の「光熱費」を削減:まず、「一般的な省エネ住宅」の場合
省エネ住宅による光熱費の削減効果については、いろいろな試算があります。そもそも「省エネ住宅」と一口に言っても、省エネ化の程度に違いがありますし、算定の前提条件もいろいろな捉え方がありますから。
細かいことは置いて、まず、次の図をご覧ください。
この図は、東京などの温暖地で、「これまでの住宅」の仕様を「一般的な省エネ住宅」の仕様にした場合の年間の平均的な光熱費の削減額の試算結果です。
ざっと2割の削減です。金額にして6万円以上のおトクです。
では、もう少し深入りしてみましょう。
家計の「光熱費」を削減:地域別、さらに「本格的な省エネ住宅」の場合
年間の光熱費と言っても、上でとりあげた東京のような温暖地と、札幌のような寒冷地では当然異なりますね。
省エネ基準では、日本国内を8つの地域に分けて、それぞれの地域区分ごとに基準を定めています。たとえば、東京23区は「地域区分6」、札幌市であれば「地域区分2」とされています。これは、地域の気候の特徴を基準に反映させるためです。
そしてもう一つ、省エネ住宅とひとくちに言っても、上で取り上げたような「一般的な省エネ住宅」から「高度な省エネ住宅」といったレベルまであります。
試算の前提ですが、上で取り上げた「これまでの住宅」は「平成4年の省エネ基準」相当、「一般的な省エネ住宅」は「平成28年基準」相当としています。そして、次に出てくる「高度な省エネ基準」は「ZEH基準」相当の住宅を前提としています。ここはやや専門的なので、読み飛ばしていただいて結構です。
次の図は、温暖地と寒冷地で「これまでの住宅」「一般的な省エネ住宅」「高度な省エネ住宅」が、年間でどのくらいの光熱費の差があるかを試算した結果です。
屋根に太陽光発電を載せたりする本格的な省エネ住宅まで進むと、上図のように、さらに大きな光熱費の削減効果をもたらします。
ZEH(Zero Energy House ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス): エネルギー消費がプラスマイナスゼロになるような、エネルギーを自給自足できる住宅のことで「ゼッチ」と読みます。おおざっぱに言うと、省エネ化でエネルギー消費が少なくなるようにして、しかもそれを太陽光発電などによって自分でエネルギーを作って、まかなってしまう住宅、というイメージです。
では、住宅の省エネ化にかかるコスト・アップ分は・・・
以上のような、光熱費の削減効果を生み出すためには、「省エネ住宅」にするための「仕様のアップ」によるコスト・アップがあります。
その試算の一例として、新築住宅について、次のようなものがあります。
(ここでは、開口部については、「複層ガラス」のアルミサッシを使う前提条件としていて、その分のアップはありません。たとえば、原仕様を「単層ガラス」とするように前提条件が変われば、金額も変わります。実は、こうした試算の前提にはいろいろ議論があります。)
いつ省エネ化するとおトク?
ここで、ひとつのポイントがあります。それは、省エネ化の工事は、あとから改修(リフォーム)工事で省エネ化するより、新築で省エネ住宅としてしまうほうがかなり安くなる、という点です。
たとえば次のような試算があります。
リフォーム工事の場合、たとえば断熱改修をしようとすると、既存の躯体(骨組み)に手を加えたり、すでにある仕上材をいったん撤去してまた復旧するといった費用が必要になるので、始めから高断熱化を目指して工事することができる新築のほうが安くなるというわけですね。
なお、先ほどの表は31万円/戸となっていて、この表は87万円ですが、この差異は、実は両者はたとえば窓ガラスの仕様や断熱材の市中製品についての前提が異なるためです。前者は現時点で見て実際的(現在単層ガラス窓の住宅は少ない)、この表は理論的(当時はまだ単層ガラス窓は少なくなかった)と言えます。この試算が公表された時、パブリックコメントで議論があり、追加の試算が行われたようです。そのくらい、費用試算はナイーブなものなのですね。
省エネ住宅の支援制度
さて、こうした年間光熱費削減の話よりもよく知られているのが、住宅を購入したり、改修したりする場合に、その住宅に一定の省エネ性能があれば、①補助金や、②税の軽減、③融資での優遇などを受けられるという点ですね。
しかし、よく知られてはいるのですが、実のところ制度ごとに求められる省エネ性能の基準が異なったり、基準自体が専門的すぎて分かりづらいという問題はあります。
①補助金制度で注意したいのは、多くの場合、年度ごとに予算が組まれて、年度ごとに内容が変わったり、年度の途中でも補助額が予算枠に達してしまうと終了してしまうという点です。
補助金制度には様々なものがありますが、募集期間や条件など注意する必要があるので、早めの情報収集が望ましいですね。
②減税制度としては、まず所得税の住宅ローン控除の上限額の上乗せがあります。また、固定資産税の軽減が受けられるものもあります。
③融資面での優遇制度としては、住宅ローン「フラット35」を借りる際の金利優遇がありますね。省エネ住宅を新築したり、一定の省エネ性能を満たす中古住宅を購入する場合、一定期間金利を引き下げの優遇を受けられる「フラット35S」を利用することができます。
2.「省エネ住宅」は、とにかく快適!
「快適さ」のための意外なキーワード:表面温度
表面温度とは、表面の温度のこと・・・あたりまえですね。つまり、床、壁、天井の表面の温度。
でもこれ、ヒトが暑さ・寒さを感じるときの、意外な落とし穴でもあるのです。
知っていますか?室温(空気の温度)と体感温度(人が感じる暑さ・寒さの感覚)とは別もの、ということ。
ざっくり言うと、体感温度=(室温+表面温度)÷2 です。(より正しくは、これに湿度や気流も関係します)
つまり、同じ室温20℃の部屋でも、壁や天井の表面温度が10℃しかなければ、体感温度は15℃にしかなりません。しかし、室温20℃で、表面温度が18℃なら、体感温度は19℃です。
これは、壁や天井の表面から輻射熱(放射熱)が伝わってくるからです。
室温は高いのに、なぜか寒く感じる・・・よくありますね。これは、表面温度が低いからです。
そして、たとえば床暖房は、足下から直接伝わる熱伝導と、床面の表面温度を高める熱輻射の両方の熱の伝わり方(熱移動)をします。
輻射熱は快適・・・そう言われても、ピンときませんね。でも、床暖房は快適・・・と言われれば皆さん同意、ですよね。
表面温度と断熱性能、そして「省エネ住宅」
冬場、暖かく快適な住まいとするためには、表面温度を下げないことがポイントです。
先ほど、床・壁・天井の表面温度、と言いましたが、壁につく窓のガラスの表面温度こそ、いちばん要注意です。
もうお分かりですね。床・壁・天井の充分な断熱材、そして窓の複層ガラス化・・・つまりそれは「省エネ住宅」ですね。
そして、夏場、涼しく快適な住まいとするのは、表面温度が上がらないようにすることがポイントです。
そのためには、やはり床・壁・天井の充分な断熱化です。そしてさらに、夏の強い直射日光を防ぐことです。そのためには、遮熱ガラス、深い庇や簾(すだれ)を採用します。簾の効用は、省エネの観点から見直されてきています。
冬に足元が寒く感じるという住まい、夏にエアコンの効きが悪い・冷房にムラがあるという住まいは、断熱・気密性能が劣っているためです。
3. 注目すべきは、「省エネ住宅」の健康効果!:体に良く、しかも、家計にもプラス
急激な温度変化による「ヒートショック」を改善する「省エネ住宅」
最近ではよく知られるようになってきた「ヒートショック」ですが、これは、室を移動する場合に、急激な温度変化があると、血圧が急上昇・下降して、脳や心臓に強く負担がかかることによって起こります。
たとえば、断熱性能の高くない住宅で、冬の夜、入浴するために、居間→廊下→脱衣室→浴室と移動する場合、暖かい室内から暖房されていない廊下を通り、寒い脱衣室で衣服を脱いで、浴室に入り、熱いお湯につかるという流れとなります。
この間、室ごとに急激な温度変化があり、廊下から脱衣室のあいだで、血圧は急上昇し、熱い湯船に入ると、血圧は急激に低下します。特に高齢者の場合は、大きな事故につながる可能性があるため、浴室に至る前の温度低下を解消することが望ましいと言えます。
そのためには、住宅を高断熱・高気密化して、各室の室温の差をなくし、室温を高めることが効果的です。
最近の研究では、断熱性能が低い住宅から高い住宅に転居した場合、各種の疾患が改善する傾向が知られてきています。
結露を防止してカビやダニを抑制する「省エネ住宅」
断熱・気密性能が低い住宅では、結露が発生する可能性が高く、結露が起きると、カビやダニが発生しやすくなります。カビやダニは、アレルギーなどの健康被害の原因になります。このような観点からも、住宅の高断熱・高気密化が望ましいと言えます。
省エネ化工事費の回収:光熱費の削減+健康維持の効果(医療費の削減)
ここで再び家計について、です。省エネ住宅化によるコスト・アップ分を、家計削減効果によって、どのくらいの期間で回収できるのかについて、横浜市が次のような説明資料を作っています。
かりに断熱工事費が100万円の場合、どのようにしてそれを回収するかというイメージを示したものです。
高断熱化した省エネ住宅は、断熱工事によるコスト・アップがありますが、最初の家計のところでお話したように光熱費の削減効果があり、回収が期待できます。それに加えて、ここでは高断熱性能による健康効果に着目して、医療費や介護費用の削減を加味して回収をとらえています。
4.災害時にも頼りになる省エネ住宅:避難所に行かず、在宅のままインフラ復旧を待てる住宅
大地震に耐え、住み続けられる家
以前、このコラム(ブログ)で、耐震性能について触れた中で、コロナ禍の中にある現在、万一の大地震の際にも避難所に行かなくて済む耐震性能を持つ家が望ましい、というようなことをお話ししました。できれば、余裕のある(計算ぎりぎりではない)耐震等級3の住宅であれば、大地震の後も住み続けられます、という趣旨でした。
この時は、住宅の耐震性についてのお話でしたから、住宅の構造的な強さについての尺度からの説明でした。
在宅のままインフラ復旧を待てる家
大地震に耐えて、このように耐震等級が上位等級で、大きな被災もなかった家であれば、住み続けられることができますが、ではインフラが復旧されるのをどのようにして待てば良いのでしょうか?
大切なことは、より少ないエネルギーで過ごすことができることです。断熱性能の高い省エネ住宅であれば、冬場でも比較的暖かく過ごすことができます。
そしてさらに、太陽光発電装置や家庭用蓄電池が備えられていれば、電力が復旧するまで独自の電力を使って過ごすことができます。
5.今回のまとめ、そして、省エネ住宅のために住宅診断(ホームインスペクション)ができること
今回のまとめ
それでは、今回のまとめです。
①「省エネ住宅」に関心を持つには、住宅の省エネ化がもたらすメリットを知ることから始めると良いのではないでしょうか。そして、メリットの一番目は、省エネ住宅が、光熱費の削減など住宅のランニング・コストの低減に寄与するという点でした。また、各種の支援制度(補助金、減税、融資優遇)も用意されていました。これらにより、省エネ化のためのコスト・アップ分が回収されます。
②「省エネ住宅」は、まず「快適」である点こそが、そこに住む価値であると言えますね。その技術的な根拠は、「省エネ住宅」では室温が表面温度に近くなり、不快な温度ムラなどが生じにくい点にあります。省エネ住宅の断熱性能の高さがそれを可能にしています。
③省エネ住宅の断熱性能の高さは、いわゆるヒートショックなどの危険性を緩和することに役立ちます。また、各種の疾患を緩和する効果についても報告されています。さらに、結露を防止できるので、ダニやカビの発生によるアレルギーなどの健康被害を予防できます。
④「省エネ住宅」は大地震などの被災後、在宅のままインフラが普及するのを待つことができる可能性があります。特に、太陽光発電や家庭用蓄電池まで備えた住宅であれば、電力を自給自足できます。省エネ性能と上位の耐震等級を備えた住宅が望ましいですね。
省エネ住宅のために住宅診断(ホームインスペクション)ができること
「省エネ住宅」を支える、高断熱・高気密の性能は、そのほとんどが、壁の中、床下、屋根裏など隠蔽部に隠れてしまいます。
内覧会などの竣工段階の検査では、床下検査、小屋裏検査などを行って、断熱材の設置状況を確認したりします。
しかし、たとえば壁の内側や、入り込めない天井裏の部分までは確認できません。そこで、私たちは、躯体検査(上棟検査)とあわせて、仕上工事に入る前、仕上のボード類を貼る前に、断熱検査を行うことをお勧めしています。
せっかく充分な厚みと性能を持つ断熱材が、不用意に潰されたり、隙間があいたままになっていたり、他工種によって乱されたままになっていたりするのは残念なことです。
また、思わぬ箇所の断熱が未施工のまま、仕上工事に入ってしまう例もないわけではありません。悪意のない、うっかりミスとも言えますが、しかし、その場所が原因で、将来思わぬ結露を引き起こしたとしたら・・・
本来は工程内検査としてチェックされるべきものですが、必ずしも充分行われているとも言えないのではないでしょうか。
まずは「お住まいも健康診断を」・・・これが私たちN研(中尾建築研究室)のおすすめ
お住まいの「質」への意識の高い方々を、私たちは微力ながら応援したいと考えています。
N 研インスペクション ~ N 研(中尾建築研究室)の住宅診断 お問い合わせ・お申し込み
私たちN 研(中尾建築研究室)の住宅診断各サービスへのお問い合わせ・お申し込みは、この下の「お問い合わせ・お申し込み」フォームよりお願いいたします。
電話( 03-5717-0451 )またはFAX( 同 )でご連絡いただいても結構です。
※ 電話の場合は、業務の都合上対応できない時間もございます。ご了解ください。
※ FAX の場合は、お手数ですが、上記のフォームにある質問項目についてお知らせください。
※ FAX でお申し込みをされる場合は、この書式をダウンロードしてお使いください。
(FAX 用)お申し込み書ダウンロード
N 研(中尾建築研究室)の住宅診断 ~ 代表が直接担当いたします
住宅診断にはN 研(中尾建築研究室)代表の中尾がお伺いします。業務の内容によっては、補助メンバーや、ご要望により英語通訳が同行する場合もありますが、 原則代表がメインでご対応いたします。
※検査・調査時に英語通訳者の同行をご希望の場合は、こちら
If you wish to have an English interpreter to be accompanied upon house inspections or surveys, please click here.