以前このコラムで、「長く住める住宅」について考える、というテーマを扱ったことがあります。
ここでは、おもに長期優良住宅についてでしたが、この「長期」とは「3世代」に渡って住み続けられる住宅がイメージされている、といったところから話題が始まりました。
住宅を「3世代」の長きにわたって使い続けるためには、住まいの維持管理、メンテナンスが重要ですね。
もちろん、メンテナンスの大切さは皆様ご存じですが、では「誰が」となると、「メンテナンスの業者に頼む」と漠然とイメージされるのではないでしょうか?
でも、業者に依頼する前に、まずはご自身で、気になる箇所を少しは確認しておこう、と思いませんか?
いやいや、我が家は一定の時期になれば、自分では見ないで依頼する・・・というような方はともかく、多くの方は、ご自宅の竣工後、時間の経過とともに、ちょっと確認しておきたい箇所が出てくるのではないでしょうか?
たとえば、雨漏り、漏水、腐食・・・それに早く気付いて、早く手当てを依頼する。そうした「気付き」のためには、できるだけ、いざという時に、行けない場所や入れない箇所が少ないことが望ましいですね。
目次
行けそうで行けないFR(フラット・ルーフ)・・・そこに窓があるのに
フラット・ルーフ(陸屋根)とは、平らな屋根のことで、最近では防水技術も向上して、屋上庭園や広いルーフバルコニーなど、多く見られます。
ここでの話題の対象は、もっと小さい平屋根の部分で、高さ制限とか、あるいは住宅の外観構成のために設けられた、狭いバルコニー状の屋根部分です。
よくあるバルコニーと異なるのは、手摺が設けられておらず、普段はそこに人が出ないことを前提とした、幅の狭いフラット・ルーフ(以下「FR」と略します)です。
人が出ない前提ではあるものの、たいていは居室の窓があるので、そうした窓から覗いてみることができますし、注意すればそこに出ることもできなくはありません。
こうしたFRも、バルコニー同様、床面には雨水排水のための勾配がついていて、排水ドレン(落し口)につながっているので、できれば定期的に詰まりのチェックが望ましいところです。
ところが、「そこに行けない、出られないFR」となっているケースがありました。
たとえば、次の図のような、玄関上の庇のためのFR(A)、さらに、その上の階に設けられたセットバック(後退)部分のFR(B)です。
それぞれ、窓に面しているのですが、その窓からは出られません。
FR(A)は、大きな窓に面しているのですが、その窓は玄関ホール上部の吹抜けの採光用であり、その大きめの吹抜けが玄関ホール全面上部にあるため、2階からその窓に行くことができません。
また、FR(B)の面する窓は、実はロフト(小屋裏収納)の窓で、ロフトとして認められるために窓の大きさに制約があり、人が出られるような大きさではありませんでした。
このFR(A)は玄関上部ですから、それでも梯子を用意しておけば、何とか点検はできるでしょう。吹抜けの窓は嵌め殺し窓のため、ガラス面の掃除のためにも、用意しておくのが良いでしょう。
また、FR(B)は、ロフトの小さな窓から、FRを覗くことはできますし、スマホなどのカメラで各部を見ることもできるでしょう。しかし、排水のドレンが詰まったらどうでしょう。「OF(オーバーフロー)管もついていますから」との説明がありましたが、竣工後の長い長い時間に、FR上に何が起きるか分かりません。
床下進入を阻む排水管・・・横断配管の先に行けるのは業者だけ?
点検口1箇所で大丈夫?
戸建住宅の内覧会などで拝見するお宅のうち、1階に浴室(ユニットバス)とキッチンがある場合は、たいていはその付近それぞれに床下収納を兼ねた床下点検口があります。
いずれも水回りですから、給排水管の点検用に備えられているわけですね。結果的に、床下に2方向から入ることができるわけです。
これは何が良いかというと、床下の給排水管が錯綜してしまう箇所ができてしまって、その箇所を通るのを避けた方が良いとき、別のルートから回ることもできるという利点です。
床下の構造図面(基礎伏図)では、基礎壁に人通口を開けて、床下のすべての場所に到達できるようになっています。この時、設備の配管ルートを考慮して、床下を無理なく進行できるように考えられていれば、一つの床下点検口だけでも良いのでしょうけれど、そこまで検討してある図面がどれほどあるのか、ということです。
次の例は、あるお宅の1階平面ですが、キッチンに床下収納(兼床下点検口)がなく、脱衣室に1箇所だけ設けられていました。
その点検口から床下を覗くと、写真のような排水管が直前を遮るように横断していました。
「小柄な設備職人なら何とか行けましたから」との説明でした。
では、引渡しを受けて、この先将来、この家の所有者は、この床下の「その先に行けない」ことで良いのでしょうか?
もちろん、メンテナンスのことは「すべて業者に頼む」というお宅なら、それで構わないのでしょうけれど、将来「何か床下が気になる」となった時、状況もまるで分からない中で、どんな業者に依頼されるのでしょうか?
1階床の高さと床下有効高さ、10センチの差は大きい
・・・と、意地悪な言い方をしてしまいましたが、「長く住める住宅」の床下は、床下の高さをある程度確保しておくことが大切です。
床下の「有効高さ」などと言いますが、新築住宅の購入にあたって「矩計図(かなばかりず=断面詳細図)」の基礎のところを見れば分かります。
矩計図(場合により、共通矩計図)を渡してくれない会社もあるかも知れませんが、その時は「立面図(りつめんず=外観図)」を見てみましょう。
たとえば、次のように「基礎高さ」が表示されているかと思います。または、GL(地盤面)から1階床面の高さが表示されているかもしれません。
この「基礎高さ」は、左図のように、少なくとも300㎜(30センチ)が必要で、「長く住める住宅」のためには400㎜(40センチ)以上が望ましいです。
使用する材料の大きさ、厚さによって多少異なりますが、図のように、基礎高300であれば、地盤から1階までは461㎜、基礎高400であれば561㎜くらいになります。
ちょっと細かいお話になりますが、この両者の床下まわりの寸法関係は次の図のようになります。
床下の土間コンクリートは、まわりの地盤面より50㎜程度高くするのが一般的ですので、基礎高300では、床下有効高さ約27センチ、基礎高400の場合約37センチとなります。
ここに、先ほどの太い排水管を置いてみましたので、本来の「有効な寸法」がイメージできるでしょう。
10センチの基礎高さの違いですが、これによって床下を進む場合の困難さの程度が違う、というお話です。
以上のように、床下の「その先に行けますか?」の問いには、①床下点検口(兼床下収納)を2箇所にして2方向からのアクセスを確保する」ことと、②基礎高は300㎜でなく400㎜が望ましい、となりますね。
デッキ下に入れますか・・・雑草の処理できますか、モノを落としたらどうします?
ウッドデッキのテラスのある住まい。
ちょっとした眺望を楽しめる、LDKから屋外へと続くテラス、いいですね。でも、ちょっとだけご注意を。
そのデッキ、その床下の点検ができますか?そのために、床下に入ることができますか?
一般にはデッキ側面は開放されているので、そこから床下を覗くことができ、メンテナンスのために入ることもできるでしょう。
しかし、設置したウッドデッキの周囲の状況によっては、その床下に入れないということもあります。
たとえば、次のようなケースです。
「床下の土の部分は防草シートで処理はしてあります」との説明でしたが、この先の長い将来、床下に入れないというのはどうでしょうか?
板のすき間からコインのような小物を落としたり、強風などで思わないゴミが吹き込んでしまったり、防草シートと言っても完璧ではないかも知れません。
点検口のない天井・・・その小屋裏、確認できますか?
これは、このコラムで何度か取り上げてきた話題です。
最近の住宅では、小屋裏(屋根裏)については、多くは天井点検口があり、そこから入れるのですが、小さな小屋裏は人間が入ることができないからでしょうか、点検口が設けられないこともあります。
また、小屋裏収納(ロフト)がある場合は、その側面壁に点検口が設けられて、ロフト横の小屋裏を点検できるように配慮されていることが多いのですが、そのロフトの天井には点検口がないことがほとんどのようです。
これも、小さな小屋裏が覗けないので、将来点検できないことにつながります。
そのほか、下屋部分の屋根裏、居室上にルーフバルコニーがある場合の天井裏、などにも点検口が配慮されているのが望ましく、将来、台風や大雨の直後などに天井内を点検できると、メンテナンス上有効です。
まずご自身でさっと点検できて、その上で、何らかの異常に気が付いたら、専門の業者に補修を依頼するというのが良いでしょう。
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