目次
1.家・マンションの傾き・・・それ、気付いていますか?
ちょっと思い出してみてください。
今では住宅に関心のある皆さんでも、かつては家の床なんて平らなもの、と漠然と思っていらっしゃった頃もあったのではないでしょうか?
ところが、例のコンクリート造のマンションが、杭工事の欠陥のために傾いていた事件を聞いて、新築のマンションでさえ傾くことがあるのかと驚かれたことでしょう。また、欠陥住宅糾弾のTV番組で、床に置かれたビー玉が転がるのを見た方は、家の床は必ずしも平らとは限らないのかと、次第に認識を改められたことでしょう・・・
家の傾き、マンションの傾き・・・とは?
では、さっそく、「家の傾き、マンションの傾き」について始めましょう。まずは、次の絵をご覧ください。
いきなりですが、床の傾きは、3メートル以上離れた2点で測定します。そして、新築で3/1,000以内、中古で6/1,000以内・・・これが許せる目安(許容範囲)です。
家の傾きは、まずはこれだけ。(もちろん、あとで詳しい説明はいたします)
ちなみに、壁や端の傾きは2メートル以上離れた上下2点で測定します。
※この3メートルや2メートルの意味ですが、「仕上材の局部的な変形によって、測定値が左右されないようにするため」です。むつかしく言うと、「構造部の瑕疵が存する蓋然性(確からしさ)を判断するため」、できるだけ距離を取りなさいということです。(説明は後ほど・・・)
家の傾き、マンションの傾き・・・それは、なぜ起きる?
このくらいの知識を覚えておいて、次に「家の傾き」がなぜ起きるか、事例や図面を使ってご紹介します。
まず、家の傾きの原因を、大きく、地盤による場合と、建物そのものによる場合とに分けてみましょう。
地盤による家の傾き
地盤によって起きる家の傾斜で、もっとも多いのが不同沈下によるものです。不同沈下とは、建物が不ぞろいに沈下を起こすことです。その結果、家が傾いてしまいます。
不同沈下が起きるのは、たとえば・・・
・厚さが不均一な軟弱地盤の層が堆積している場合
・建物の重さに極端にかたよりがある場合
・隣地との間に擁壁(ようへき=土留の壁)があり、その擁壁が変形(倒れたり、移動したり)した場合
・擁壁の裏に入れる土の埋め戻しが不十分な場合
・地盤改良の設計不良や施工不良
・軟弱地盤層の上に盛り土が行われた場合
・住宅敷地の近くで大規模な掘削工事が行われた場合や大規模な盛り土が行われた場合
などです。こらららを模式的に図で現わすと次のような感じです。
地盤が不同沈下を起こすと、住宅の基礎も不同沈下します。その場合、①基礎にひび割れが生じて住宅が変形して傾く場合(変形傾斜)と、②ひび割れなどは起きないで、建物が一体となって傾く場合(剛体傾斜)とがあります。
次の例は、築40年ほどの木造2階建て住宅のものです。傾斜地を造成した場所で、前面に写真のような擁壁があり、背面の道路側から徐々に土地が高くなっています。眺望の良いお住まいで、その点は気に入っていらっしゃいました。
外部については、10年ほど前に外壁の改修を行ったとのことですが、基礎や外壁のモルタルにクラック(ひび)が見られました。室内を拝見して、簡易的にデジタル水平器で測定したところ、擁壁を見下ろす前面側の部屋にかなりの傾斜が見られました。
2000(平成12)年、建築基準法が改正されて、地盤調査が事実上義務化されました。ですから、40年以上も前のこの住宅では、地盤調査は行われなかったことでしょう。傾斜地を開発した宅地に、地盤改良などは考慮されないまま、住宅建設を行い分譲されたのでしょう。道路側はおそらく切り土で、住宅はある程度その上に建てられたようですが、擁壁側の一部は盛り土で、40年の間に次第に沈下・傾斜したと考えられます。
このお宅は、以前簡易耐震診断を受けていて、その際の報告書にも、外壁のクラックと基礎の不同沈下が指摘されていて、前面の擁壁についても定期的な観察が必要とのコメントがありました。
この場合、詳しくは、地盤調査を行い、場合により擁壁部分の動きの有無を調べるなどの詳細診断を行うことが望ましいのですが、そもそもお住まいのご本人は、傾いているという認識がありませんでした。
後ほど、住宅の傾きと健康障害のお話をしますが、この例のように比較的長い時間をかけて、ごくわずかずつ傾いてゆくお住まいでは、慣れの部分が少なくないために、家の傾きが意識されにくいという問題があります。
地盤に関係する家の傾きは、このほか、強い地震によって地盤が液状化して建物を支えられなくなり傾斜が起きることもあります。
液状化現象は東日本大震災の際に首都圏の一部で発生したことで、よく知られるようになりましたが、一見硬そうな地盤が地震の揺れで液体状になることです。この場合は一般にはその地域の住宅に広く同様の被害が出ます。
建物そのものによる家の傾き
建物そのものによる傾きの原因としては、
・施工上の不具合(基礎、土台、床の施工精度、柱、壁の施工精度の悪さ)
・設計上の問題(横架材のたわみなど)
・経年劣化による傾斜(土台、大引き、木束、柱などの雨漏り、結露、腐朽蟻害などによる劣化)
などが挙げられます。
冒頭のマンションの傾き事件は、マンションを支えるコンクリート杭が、支持地盤(地中の固い層)まで届いていなっかたという、まさに「施工上の不具合」によるものでした。
こうした、建物自体による家・マンションの傾きの事例は、まさに「住宅診断不具合事例」として、枚挙にいとまがないものですね。なので、これらの事例紹介は、ひとまずそちらにおゆずりすることといたしましょう。
ここでは、そうした家の傾きの問題とは少し異なる、しかし大きく関連する事例をお示ししましょう。
築20年ほどのお住まいの2階の一室の建具(引き戸)に不思議なことがありました。
写真のとおりの全景ですが、扉の左右の柱と枠はともに垂直(①~③)、扉自体の歪みもなく、幅も上下同寸(④)、にもかかわらず、扉が閉まっている時は隙間なくぴったり閉まる(全景写真)のに、扉を引いて開けた時に扉の右上だけ枠との間に隙間ができてしまう(⑤)という、ちょっとしたミステリー。
柱も枠も傾いていないので、今回の傾斜のテーマから逸れてしまうようにも感じてしまいますね。
実は、相談された大工さんも理由がわからず、仕方なく隙間に木の小片を打ち付けて、仮の戸当りにして帰られたとのこと。(⑤の隙間の小片)
さて、この原因、お分かりでしょうか?
ヒントは、次の写真です。
今回、いちばん始めに、床の傾斜は3m以上離れた2点で計測するという原則をご説明しました。
しかし、実はこのように、床全体の傾きばかりでなく、時に局所的な傾斜を測ることが必要な場合もあるということなのです。
上の左の写真がそれです。このわずかなところだけが、まわりから浮き上がるように、局所的に傾いていました。
そして、扉下の戸車の調整具合を確認してみたところ、隙間⑤の理由がはっきりしました。
まだ、ピンと来ない方もいらっしゃると思いますので、模式図(傾斜を極端にして描いてあります)を作りました。
⑥のごく部分的な「局所的な傾斜」が出来てしまったので、扉下の戸車の高さを調整して、扉が柱にぴったり付くように設定したわけです。このため、扉を床が水平な図の右側に引くと、扉がわずかに傾いてしまい、右上⑤に隙間ができるというわけです。
このお住まいは、柱はいずれもほぼ垂直。そして、扉の外の廊下や室内の床は、ほぼ水平。
そのことがかえって、このような局所的な床の傾斜を見落としかねないことにつながっていました。
おそらく、扉のレールの下にある梁材または床下地材に、部分的な不陸(ふりく=平らでないこと)があったのでしょう。その箇所の是正をしないまま、レールと床仕上げの工事を行ってしまい、上記のような戸車の調整で扉を閉めた時に隙間が出来ないようにしたのでしょう。
このように、局所的な傾斜と言えども、施工の不具合に起因するものであれば、もちろん診断で指摘する必要がありますね。
2.家・マンションの傾き・・・それ、許せますか?
家・マンションの傾きが引き起こす「健康障害」・・・許せますか?
家が傾いていると聞けば、建具(窓や扉)の開閉に支障があるとか、壁にクラック(ひび割れ)が入るとか、隙間風が入る、というような、生活上の支障が、まず思い浮かびますが、それだけではなくて、めまいや吐き気といった体調不良を引き起こす原因ともなります。
つまり、「住宅の物理的不具合」と「住まい手の健康障害」の両面が引き起こされる可能性があります。
後者の住宅の傾きがもたらす健康障害には、先ほどの擁壁の上のお住まいの例のように、かなりの個人差がありますが、具体的には、たとえば次のような調査研究報告があります。
家・マンションの傾き・・・許せる目安(許容範囲)は、新築と中古で異なります
最初にお話した、家の傾きの程度が、許容範囲内かどうかを示す目安の数値について少し掘り下げてみましょう。
新築・築浅の家・マンション、その傾きの目安となる数値
住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)という法律をルーツとする「住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準」の中に「傾斜」の項目があります。
ただし、この基準の適用条件は、完成から10年以内のものです。
つまり、ざっくりと築浅住宅を対象とするイメージですね。表にすると次のようになります。
この表の左にある傾斜の数値が、「技術基準」にある数値です。この数値は、木造住宅だけでなく、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の住宅も対象としています。
※参考までに、この数値の設定根拠ですが、まず3/1,000という数値は、通常想定される施工誤差のみ、あるいは想定される沈下のみでも発生し得る水準の傾斜として、統計的な調査にもとづいています。
さらに6/1,000はその両者の合計として設定されていて、これを超えると、通常の施工誤差や沈下以外の要因(構造部の瑕疵など)が存在する可能性が高いという考え方だそうです。
ここで、この数値の使用上の注意をふたつ。
(1)この技術基準の傾斜の数値は、タイトルが示すように、住宅紛争の場で参考とするためのもので、住宅の「構造部の瑕疵(かし=欠陥)」を考えるために設定されたものです。そのため、仕上材の局部的な変形など局所的な傾きを対象とするものではありません。この点は、この表の数値を使う上での注意点です。先ほどからお話ししている、測定距離(床3m、壁柱2m以上)は、そのためのものです。
(2)また、住宅の傾斜というのは、あくまで表面に現れた「不具合」事象です。この不具合を数値で捉えることで、一般には表面に現れていない基本構造部分の瑕疵(例えば、基礎の施工不良といったもの)を把握しようとするものなので、この表の数値は、あくまで可能性の高低に止まるということにも、注意しておく必要があります。
中古の家の傾き、その目安となる数値
一方、中古住宅の場合は、先ほどの品確法に基づく「建設住宅性能表示制度・既存住宅現況検査」や、(財)日本建築防災協会「木造住宅の耐震診断と補強方法」において目安とされている、6/1,000を基準とすることが一般的です。
※品確法では「中古住宅」ではなく「既存住宅」と呼びますが、既存住宅の劣化状況を評価する際に、戸建住宅の壁、柱および居室の床については、6/1,000以上の傾斜を劣化事象として取り上げる(特定劣化事象等と言います)こととなっています。
※日本建築防災協会の上記書籍は既存住宅の耐震診断の指針となるものですが、劣化度調査方法の解説に、建築後10年以上経過した住宅で、柱や壁、床の傾きは6/1,000を超えるような傾きのあるものを取り上げています。そこにはまた「6/1,000以内であれば施工誤差の範囲内と考えられ・・・」との記載もあります。
ただし、新築でも、中古でも、傾きが6/1,000を超えていても必ず瑕疵があるというわけではありません。
しかし、6/1,000を超えると、健康被害が出やすくなります。これらには個人差がありますし、大きな傾きがあっても、長く住み続けていて慣れてしまっている場合もあります。
先ほどの擁壁の上のお住まいでも、家の傾きがかなりありましたが、家の傾きが少しづつゆっくり進行したためか、ご本人は慣れてしまっていました。
家の傾き・マンションの傾き・・・このお話はもう少し続きますので、今回はここまでひと区切りといたします。
ここまで見てきたように、新築から10年目までと、10年目以降で家の傾きの目安(許容限度)が変わります。
以下、次回に続きます。
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