賃貸用マンションは、管理会社が管理し、賃貸人・賃借人それぞれが建物・家財の保険に入る、という契約条件が一般的です。
賃貸中のトラブルに対して、共用部は管理会社により維持管理され、専有部の火災・風水害、あるいは水漏れ等の事故は、保険がカバーしてくれます。
しかし、専用部の設備などの経年劣化にともなうトラブルまで補償されるかという問題は残ります。
目次
劣化による修繕費用は補償されるのか
投資用マンションは、オーナーご自身がそこに住むわけではないので、賃貸中のトラブルという不安があります。もちろん、そのために管理会社が管理し、賃貸人・賃借人それぞれが建物・家財の保険に入る、という契約条件が一般的です。
共用部は管理会社により維持管理され、専有部の火災・風水害、あるいは水漏れ等の事故は保険の選び方にもよりますが、カバーしてくれます。
問題は、専用部のたとえば設備などの経年劣化にともなうトラブルまで補償されるかという点。
一般に、劣化による修繕費用は補償の対象外とされます。
経年劣化なのか、改修時の不手際なのか
このマンションの室内はきれいにリフォームされ、ミニキッチンまで新品に交換されていて、確かに表面的に見える範囲では入居者が安心できそうな雰囲気でした。
しかし、リフォーム済み物件は、表面の背後にある、いわば「見えないところを診る」姿勢が重要です。
「見えないところ」。ここでは、ユニットバス(UB)の天井裏と床下が、通常は見えないところです。特に、天井にある換気設備に注目しました。
きれいに改修された、居室の仕上げに比べて、外見からして少々気になりました。写真のように、UB天井にある換気扇のガラリ(ルーバー)が、後付けと思われる木枠の下に付いています。以前にもオーナーチェンジがあったらしいのですが、UB天井の換気設備改修の履歴などは不明だそうです。
そこで、許可をいただき、UB天井の点検口を開けてみたところ、すぐそこに上階のコンクリートのスラブ(床版)面があり、天井フトコロつまり天井裏の余裕がほとんどありません。つまりこれは、施工もさることながら、設計そのものにもかなり無理があったということです。
そのため、蛇腹のダクトがやや押しつぶされてU字状に収まっていました。片隅には電気配線類が丸められています。
天井裏があまりに狭いので、これでは頭を入れて観察することもできません。とりあえず隙間からスマホを入れて、ほとんど手探りで写真を撮ってみました。一番右の傾いた写真がその時のものです。
おそらく、天井ガラリ上の木枠といい、このつぶれたダクトといい、前回の改修で元の設備を取替えた際に、適切なサイズのものが手配できず、大きめのサイズのものを使用したのでしょう。
一般に、浴室UBの排気ダクトは、内部に結露水が溜まったりしないように、屋外側に向けて勾配を取る、という基本ルールがあります。しかし、ここでは勾配どころではありません。
内視鏡が捉えたもの
天井フトコロがあまりに狭く、点検口内に頭を入れることさえ困難。しかし、ここであきらめてしまうわけには行きません。
そこで、このような狭小スペースの内部を確認してみるため、工業用内視鏡を使うことにしました。お医者さんが胃カメラで使う内視鏡の簡易版です。
ちろん高価な胃カメラのように、先端を遠隔操作で動かせるような高性能なものでなく、手動式です。
それでも確認できたのは、先ほどの蛇腹のダクトの先の方で、そこに巻かれていた銀色のテープが一部剥がれてしまい、その先にあるダクトとの間に隙間ができてしまっていたことです。
つまり、換気扇を稼働させても、ダクトの空気が天井裏に漏れてしまうという状態になっています。
依頼者様:「これでは、お風呂の湯気が天井裏に漏れてしまう、ということですね」
この天井内ダクトのどこが問題なのかをよく理解されていました。
後日、この依頼者様からメールが届きました。最初気持ちが動きました、とあります。いわゆるリフォーム済み物件の注意点と言えるでしょう。
先日は同行していただき、ありがとうございました。
入室したときは、綺麗にリフォームされていて、心が動きました。しかし、隠れた箇所も見ましょうと言われ、浴室の天井裏までしっかり拝見できました。ご指摘の問題点については、今のオーナーにとっても想定外だったようです。まさに賃貸オーナーにとっての盲点です。
(以下略)
ここからの教訓:「見えないところを診る」ということ
マンションでも戸建てでも、浴室のUB天井点検口の中は必ず確認するようにしましょう。
UBの天井裏は、普段は「見えないところ」です。だからこそ、確認しましょう。
一般には、この例ほど窮屈ではなく、頭を入れることができます。写真のような木造戸建てであれば、1階の天井裏の様子を観察できることが多いですし、マンションであれば、駆体のコンクリートの状況を確認することができます。
余裕のない天井フトコロ(天井裏スペース)の例は、本件に限りません。
下の左の写真は中古の鉄骨造住宅の最上部、ALC版下のUBで、天井内の丸鋼と点検口のフタが干渉していた例です。住宅のオーナー様は、点検口など開けたことがなく、拝見に伺った際、はじめてこの事実を知られたということでした。
また、下の右の写真は、別の住宅のUB天井内ですが、換気扇のところに、屋外に向かってダクトは1/100以上の勾配を設けるように、との注意事項のラベルが貼ってありました。
UBの天井裏、まさに「見えないところを診る」を実践しておきたい箇所です。
UB天井ダクトの接続不良、その顛末
その後しばらくして依頼者様から、連絡がありました。
現オーナー側で設備業者に調査させ、やはりダクトの接続部が外れていることを確認したそうです。
この不具合は、以前の借り主によるものではなく、経年による劣化であるため、保険事故に該当するものとは言えないため、現オーナーにとっても想定外に違いありません。
結局は、現オーナー側で補修することになったそうです。
補修後に、依頼者様と再訪した際の写真です。
点検口を開けて覗いてみましたが、接続部は補修されていました。手前の蛇腹ダクトは、既存ものを撤去して、新しいものと交換したそうです。その際、残りのダクト内は清掃・消毒した上、新たなダクトを接続したとのことです。
実際の工事は、換気扇本体を取り外し、少々つぶれたダクトを撤去して、狭い天井内で新設ダクトをつなぐという作業でした。
本件は、賃貸向けのいわゆる投資用マンションなので、もし借り主が居住中であれば、住戸内を確認しないままのオーナーチェンジだったかも知れません。
本件の依頼主様が幸いだったのは、たまたま借り主がいない期間に内装のリフォームを行った直後に、室内を拝見できたことでした。
しかし、実際には、世のオーナーはもちろん、借り主も、そのことに気づかないまま、換気しない換気扇を動かし続けているような中古のマンションが、意外に多いのかもしれません。
あらためてそう感じさせられた一件でした。
おかげさまで、換気扇を更新していただきました。
立地的には良い場所ですので、仕切り直しで、前向きに検討したいと思います。
(以下略)
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