小屋裏(天井裏)の断熱には、「屋根断熱」と「天井断熱」という方法があります。このうち、よく見られるのが天井断熱で、天井裏に断熱材のマットなどを敷く方法です。
このコラムでもよく取り上げるのですが、天井裏を覗いた時によく見られるのが、この断熱マットの敷かれ方の「乱れ」。これは驚くほど多いです。
目次
小屋裏調査にあたって
築20年を迎えた、木造二階建てのお住まい。
2階和室の天井を簡易なサーモカメラで見たところ、天井の一部に高温の箇所が見られました(白く見える方が高温)。天井裏に上がると、一部に断熱材(マット)の敷設の乱れがありました。
ご主人様:「天井を見あげてもまるでわからないのに、赤外線カメラというのは、はっきり温度差があらわれるものですね」
そう言われたご主人、珍しそうにサーモカメラを覗いておられました。最近はコロナの影響で、一般的にもよく知られるようになったサーモカメラですが、コロナ以前の当時としては一般にはまだまだ珍しい機器でした。
断熱材の厚さ―基準の変遷、当時と今
天井裏に敷設されていた断熱材はグラスウールマットで厚さ50㎜。20年前の当時としては、一般的な材料・厚み(10K相当、50㎜)でした。
しかし、この20~30年の間に、より性能が高い断熱材を、より厚く使うように基準化されてきました。この地域でも、高性能グラスウール(16K相当)で150㎜程度が望ましいところでした。
中古住宅について、今の住宅では一般的仕様なのに、完成した当時はそうでなかったものとして、住宅の断熱・気密が挙げられます。
そうした観点から、この天井裏の状況に関するコメントでは、以下のような報告をしました。
- 効果的な断熱の基本は、建物内部を断熱材で隙間なく包むことです(一番の基本事項です)
- しかし実際には、天井裏では、本件に限らず他の例でも良くあるように、断熱材の乱れが多く見られます
- その断熱材の厚みは、当時は一般的であったけれど、現在の標準的なものと比べるとかなり薄いです
- そして、最近では「気流止め」への感心が高くなってきています(これは後ほど扱います)
などについて申し上げました。
天井裏の断熱材の乱れは、程度の差はあるものの、中古住宅では良く見られます。竣工当初からと思われるものもありますが、後からの別の工事(電気・設備工事など)の際に動かしたままではないかと思われるものもあります。
なお、天井裏に関して、断熱材の件とは別に、垂木の固定金物についても気づいた点があったので、そちらも報告に添えました(これも後ほど)。
天井内の改修工事
後日、ご本人から、報告書で指摘をした断熱材の敷設乱れの是正だけでなく、築20年を機に、断熱強化(改修)をしたいがどうだろか、とのお話がありました。
調査および報告書、ありがとうございました。
指摘いただいた天井断熱材の乱れの件ですが、参考情報のところにあった断熱材厚さの増強も含めて、今回思い切って改修しようかと考えております。あわせて、タルキの止め金具の追加も可能ならいっしょに工事できたらと思います。
(以下略)
既存の断熱材の状態は良好なことから、その上に住宅用のロックウールマット厚さ100㎜を増敷きすることになりました。既存と合わせて、先ほどの高性能グラスウール(16K)150㎜同等とする方針です。
まず、このお宅を以前工事した工務店さんに、参考資料(後述「ガイドライン」など)にある施工方法の記述のような改修工事が、この天井裏でも可能か相談。改修の場合、理論だけでなく、まずは現地調査、そして施工可能性の確認が大切ですね。
さらに、小屋裏(天井裏)を調査した際、垂木のひねり金物(固定金具)が、垂木一本おきの設置だったので、最近の大風・突風の多発もあるので、垂木すべてを金物で固定してもらうことにしました。
【カイゼン1:断熱補強工事について】
断熱補強、金物追加、どちらも、新築時とは工事の手順が違うので、以前工事をした工務店で良かったと思います。
断熱材のマットを、納戸の天井点検口から搬入。既存断熱材の上に新しい断熱材を敷きながら、既存材の乱れや隙間を是正してゆくようにしました。
既存の改修のため、必ずしも新築のようにはいかない箇所もありますが、「天井裏に断熱材を隙間なく敷く」「既存の断熱材の厚さを倍にする」という目標には近づけました。
本件に関連して、「小屋裏敷込み断熱改修」と「小屋裏気流止め改修」のそれぞれのポイントを以下にまとめます。
【小屋裏敷込み断熱補強のポイント】
- ロール状の断熱マットを、既設のマット上に重ねて、隙間をふさぐとともに、する。
- 期待される改善効果は、主に夏期の小屋裏にこもった熱気が室内に与える「焼け込み現象」の解消。
- 夏期の冷房効果改善とともに、冬期の暖房対策としても効果。
- 住まいながらの改修が可能な断熱改修工法。解体等を伴わないため、半日~1日ほどで工事完了。
- 防湿フィルムを室内側に向けて設置する点に注意。
【小屋裏気流止め改修のポイント】(「気流止め」については当コラムの別の回で解説図付きで扱っています)
- 冬の冷気が壁体内を流れて、外壁や間仕切り壁の室内側表面温度が低下することを防ぐ。
- 「気流止め」は、断熱改修において最近強調されるようになってきた、いわばこれまでの断熱の盲点。(私たちの事務所では、中古住宅、特に自宅の診断において、劣化事象とは別に、断熱ロス(熱損失)の観点から指摘するようにしています)
- 最近では、気流止め専用部材もある。
- 期待される改善効果は、ボード両面貼りなどの壁体内に冷気が流れなくなり、室内側壁面の温度低下や、暖められた室内空気の熱損失(ロス)を防止すること。
- コンセントボックスや壁と床・天井取合いの隙間などから、壁体内への冷気流入を防止する。
(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構「既存住宅の省エネ改修ガイドライン」を一部引用)
【カイゼン2:軒先垂木(たるき)の固定】
住宅の屋根は台風の時に風圧で押しつけられるだけでなく、吹き上げられたりもします。特に軒先は、そうした強風の際に、強い吹き上げの力に耐えなければならないので、垂木(たるき)とそれを支える軒桁(けた)は、しっかり固定されている必要があります。
この住宅では、2階の小屋裏に上がった際、軒先の方向に「ひねり金物」が見られました。ところが、垂木のひとつおきにしか金物が付いていませんでした。
この「ひとつおき」が、妥当なのかどうなのか、ということですが、ひとつの目安として、住宅金融支援機構「木造住宅工事仕様書」の「たる木」の項目があります。そこには、
「軒先部の留付けは、けたへひねり金物、折曲げ金物又はくら金物を当てて、くぎ打ちとし、すべてのたる木を留め付ける。」
(住宅金融支援機構「木造住宅工事仕様書」引用時点:平成27年版)
とあります。
参考までに、これらの金物は接合金物規格の認定品が使われてきましたが、最近では、工事の手間を減らしつつ認定品の金物以上の強度を持つ特殊なビスも開発されて、垂木の上から打ち込む(ネジ込む)タイプのものもあります。ビスタイプのものは、今回のような金物が見えません。
いずれにしても、「すべての垂木」が金物で留め付けられていることが望ましいと言えます。
ご主人:「断熱材の増強工事のときに、屋根裏に入る職人さんに、金物の取付けもやってもらいたいですね」
ということで、地元の工務店で同時の工事となりました。
【垂木の固定金物まとめ】
➀軒先の垂木は、原則全数軒桁に固定する。
②固定方法は、ひねり金物、くら金物などによるほか、最近では特殊な建築ビスも開発されている。
③手間の関係から、今後は建築ビスタイプが増えると思われるが、下や横からは確認しづらいので注意。
工事を終えた、依頼主様からのご連絡がありました。
天井裏の工事、完了いたしました。
報告書の参考情報のところにあった断熱材厚さの件ですが、知合いの息子さん夫婦の新築住宅を見せてもらった際、天井裏を点検口から覗いて、断熱材の厚さの違いに驚きました。報告書情報と実物両面から、拙宅の天井断熱材の増強を強く考えた次第です。
また、垂木の金物を全数固定にしてもらったので、今後の台風でも安心出来そうです。
(以下省略)
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