診断とお客様の声

住宅診断結果報告、その数ヶ月後に起きたこと(化粧スレート葺き)

化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

戸建てを持つ・・・ということは、維持管理はすべて自己責任。

最近では売り手側も、アフターケアもビジネス機会と捉えて、フォローするところが増えてきましたが、やはり維持管理の主体は所有者様ご本人。

 

N研-中尾-
ここでは、「ご自宅のメンテナンスに意識の高いお客様」の例を取り上げて、 住宅の劣化と維持管理、そのための住宅診断(ホームインスペクション)の役割を考えてみましょう。

 

ご自宅のメンテナンスに意識の高いお客様

外壁改修|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

化粧スレート屋根の金物の劣化

棟板金|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

化粧スレート屋根の棟部詳細

築 25 年、木造 2 階建のお住まい。購入当初はまだ周りに空き地もあったようですが、今では住宅がびっしり建ち並んでいます。

戸建てを持つとは、維持管理はすべて自己責任」そのことを良く承知されていた依頼者様。

感心したのは、すでに外壁を外断熱に全面改修されていたこと。ご自宅のメンテナンスに関心の高いご夫妻です。

外壁を改修する際、業者と打ち合わせて、外断熱の外壁にしました」と、自信ありげなご主人。外まわりを拝見しましたが、確かにしっかりしていました。

そして次に、高所カメラで屋根を拝見。高所カメラの操作は意外と原始的なのですが、撮影した画像を拡大すると細部まで鮮明に確認できます。

すると、地上からでは見えにくいのですが、上から撮ると、屋根材と棟の金物(棟板金)の両方に、かなりの劣化が見られました。

屋根の(むね)とは、屋根の頂上のところです。そして、棟板金(むねばんきん)とは、図のように化粧スレート屋根の頂部にかぶせる金物です。

屋根の頂上までスレートが葺かれ、棟の両側で貫板(ぬきいた)と呼ばれる木材を打ち付けます。その二枚の貫板にこの棟板金(棟包み)をかぶせて、側面から貫板に向けてを打ち付けて、棟板金が固定されます。

この釘というのもポイントで、この釘が浮いていたら要注意です(後出)。

棟板金は屋根の頂部にあるので、年中風雨に晒され、暑さ寒さで膨張収縮もするという、過酷な状況に置かれた金物です。

実際、台風や大風の日に、棟板金が剥がれて飛ばされる例は多く報告されています。 本件でも釘浮きが見られたので危険な状態と判断したので、この時の報告書では、化粧スレートの経年劣化とメンテナンスのほか、棟の劣化について少し強めにコメントしました。(下記に一部引用します)

棟の劣化|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

報告書から抜粋(一部加工)

棟の部分は、地上からは気付きにくく、普段は意識されない部分です。まさに、お客様にとって「見えないところ」と言えます。

このレポートの強めのコメントで、お住まいの屋根の現状を把握されたことでしょう。 報告書提出直後、依頼者様から次のようなメールを頂きました(抜粋)。  

中尾様

診断レポート受領しました。ありがとうございます。
新しいことには目がないので、存分に楽しい経験ができました。高所カメラ、赤外線カメラ、ワクワクしました。ご指摘を踏まえ、屋根を中心に営繕手順を考え、資金手当てのうえ、実施していきたいと思っています。
(以下省略)

N研-中尾-
診断当日の好奇心があふれたほほえましい内容の記載とともに、屋根修繕の優先度が高いこともご理解いただき、ご資金の準備をした上で改修実行される考えであることもうかがうことでできました。

報告書提出の数ヶ月後に起きたこと

ところが、報告書提出後、半年も経たないうちに、ご主人から下のようなメールが届きました。メールに添付されていた写真には、剥がれて飛ばされた棟板金と貫板が写っていました。

中尾様

先日の台風で、添付写真のように、屋根のカバーがめくれてしまいました。屋根はコロニアル全体の老朽化はありましたが、カバーをもっていかれるとは、意外でした。バリバリとすごい音がしました。家内の知り合いの( 略 )が、補修をしてくれる予定ですが、材料が千葉の災害復旧のため、不足気味とのことでした。
(文中一部引用省略)

依頼主メール抜粋|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

依頼主様メールの添付写真から

N研-中尾-
恐れていたことが起きてしまった、という事例になってしまいました。そして、もう少し早く屋根改修を済ませていたらという悔しさ。外壁の外断熱化改修など、ご自宅のメンテナンスに人一倍関心の高いご夫妻ですので、ショックも大きかったのではないでしょうか。

早速、当方からも返信しました。そのときのメールは次のようです(お名前のところは略します)。

〇〇様

メール届いておりました。
屋根の棟板金の件ですが、先日の〇〇様邸レポートの後半に付けました「説明書」の7~8 ページで、少し触れたところです。棟板金を留める釘が劣化していたのと、板金が屋根面から浮いてしまっていたのが原因かと思います。コロニアル(化粧スレート)は、軽量なので、地震には有効なのですが、劣化による定期的なメンテナンスが必要なことと、一般の人が迂闊に屋根上を歩くとスレートが割れてしまうという欠点があります。
7ページの図にありますように、スレートや棟板金の下に防水紙が貼ってあるはずなので、直ちに漏水はおこらないとは思いますが、この防水紙はステープル(ホッチキスみたいなもの)で野地板に留めてあるので、その針のまわりから雨水が沁みこむおそれがあるので、長期間雨水に直接さらしておくのは望ましくありません。
(以下略)

まとめ 1:ここでの教訓

化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

別物件の棟板金付近の状況

化粧スレート葺きは、現在では製品の種類も豊富で、軽量な材料のため地震に有効という触れ込みもあり、価格面からも手ごろで、現在ではもっともポピュラーな屋根材となってきました。

しかしスレートに限らず、屋根というのは一年中猛暑・酷寒の中に置かれ、風雨に晒され続けていて、外部仕上げのなかで、一番過酷な環境にありながら、意識されにくいところです。経年劣化については、いちばん深刻に考えるべき部位と言えます。

本件に限らず、年月を経た化粧スレート屋根とその棟の部分、あるいは金物の部分には、劣化が実に多く見られます。

たとえば、上の事例は、3 階建ての屋根頂部で、類似の劣化状況となっていますが、お住まいの方にとっては、普段気が付かず、また容易に近づけない場所のため、まさに「見えないところ」となっています。

本件の依頼者様は、意識の高い住まい手ですが、外壁と屋根の「メンテナンスの優先順位」についても、今回学ばれました。順序は前後しますが、この依頼者様は、診断直後、次のようにも言っておられました。なるほどと思ったので、引用します。 

( 略 )

灼熱の屋根裏チェックには頭が下がりました。家内も喜んでおりました。
この結果を踏まえ、もう少し蓄えをした後、その時の生活スタイルに合ったリフォームをします。 
(以下省略)

N研-中尾-
意識の高い住まい手、そうした人たちは、住宅診断の結果をライフプランの指針として活用されています。すでにそういう時代になりつつあるということです。こうした方たちにさらに、メンテナンス・サイクル、優先順位の考え方をアドバイスするきっかけとなった、今回の「事件」でした。

まとめ 2:化粧スレート屋根の棟板金の注意点

化粧スレート屋根は、スレート自体の変色・劣化とともに、棟板金の経年劣化にも注意が必要です。そのポイントは次のような点です。

  • スレート屋根の「棟板金」は、屋根最上部のスレートが葺けないところを、スレートに代わって風雨から守る金属板。屋根の最上部で、風の影響を受けやすく、隙間からも風が吹きこみ煽られる。また、太陽に熱せられたり、雪に冷やされたりして、金属板の伸び縮みの力も受ける。
  • 過酷な条件に晒されて、側面から打たれている釘が少しずつ浮いてくる(釘浮き)。また、貫板が痩せたり、雨水の浸入で腐食したりして、釘が効かなくなる場合もある。釘浮きの結果、板金固定の力が弱まり、台風などの時に棟板金が飛散する危険性がある。
  • 改修では、貫板の劣化程度により、釘の打ち直し(またはビス止め)で済むか、貫板を交換するかを判断。棟板金についても、さび落としの上再塗装とするか、板金そのものを交換するかを判断。
  • 最近では、貫板を防腐処理済みの木材としたり、樹脂製としたりするケースも。留付けも釘ではなく、ステンレスのビス。棟板金自体も亜鉛メッキ鋼板(いわゆるトタン板)よりガルバリウム鋼板(アルミ・亜鉛合金メッキ鋼板)とすることで、より耐久性を高められる。

参考 1:換気棟について

換気棟|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

(左)換気胸の事例、(右)換気棟のしくみ

棟板金自体は、住宅の棟にかぶせて屋根頂部を守る役割の金物ですが、最近では新築を中心に「換気棟」を採用して、棟の部分でも小屋裏(天井裏)換気を行う例が増えてきました。正しく施工されれば、効率的な小屋裏換気となります。

手間もコストもかかりますが、屋根内部の維持管理の点では、改修時に採用を検討されても良いかもしれません。 

参考2:化粧スレート屋根材自体について

化粧スレート(屋根材自体)の経年劣化

屋根材自体|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

国土技術政策総合研究所共同研究成果報告書2017.06所載の図をもとに作成

① 化粧スレートの住宅屋根は、一般に、垂木(たるき)の上に、構造用合板などの野地板(のじいた)を張りその上にアスファルトルーフィングなどの防水紙(下葺材)を敷き、その上に化粧スレートを専用釘で留め付けます。 

もし表面のスレートが割れたり欠けたりして、雨水が浸入しても、その下の防水紙が二次防水の役割を担うので、直ちに漏水することはありません。しかし、スレートの破損をそのままにすればやがて防水紙の劣化につながります。

化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

(左から)良好(竣工時の状態)、色褪せ、塗膜剥離、基材湿潤

②化粧スレート屋根の劣化は、一般的には、時間の経過とともに、次のように進行します。 

良好状態→色褪せ(チョーキング)→塗膜剥離→基材湿潤→基材破壊(凍害)

色あせや軽微な塗膜剥離は、劣化が始まったサインです。これらに気づいたら早めのメンテナンスが大切です。

基材破壊(凍害)や著しい反りなどの段階になると、屋根の葺き替えが必要になります。

化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

(左)軒先の劣化(一部コケ発生)、(右)比較:良好な状態(竣工前物件)

③ 化粧スレート屋根は、定期的に再塗装してメンテナンスします。
塗装自体は、防水性能を改善するためではなく、スレート屋根の表面を保護するものです。しかし塗膜が消失すると本体基材が吸水するようになり、反り、破損、こけ発生などの原因となります。

それらを放置しておくと、やがてスレート面から雨水が浸入します。その下の防水紙が二次的に防水してくれるものの、やがては雨漏りにつながります。この時点では、劣化は相当進行しています。浸入した水はやがて木部を腐朽させたりします。

④ 劣化の進行を食い止めるには、劣化のサインが現れたら、再塗装することです。
塗装の際に注意する点は、屋根材相互の重なりに入った塗料を「縁切り」することです。縁切りが行われないと、毛細管現象で浸入した雨水が排出されず、かえって雨漏りにつながります。

⑤下葺材である防水紙の劣化の程度は、屋根外観からは判断できないので、小屋裏(天井裏)の野地板を点検し、雨漏れなどの症状を確認して判断します。

化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

野地板の染み

 

⑥ 化粧スレート(コロニアル) 屋根の塗装メンテナンスの流れの例を資料引用します。

金物と屋根材自体、それぞれに補修を行っています。

④の注意事項「縁切り」の事例写真があります。

塗装メンテナンスの流れ|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

住宅産業協議会「住まいと設備のメンテナンス技術ガイド」より

スレート屋根のメンテナンススケジュールの例を資料引用します。

住宅の置かれた条件により年数は変動しますが、定期的に塗装を行い、時期がきたら葺き替えを行う、というのが一般的です。

スレート屋根のメンテナンススケジュール|化粧スレート葺き|おすすめホームインスペクション|新築・中古・自宅の住宅診断

住宅産業協議会「住まいと設備の こうなる前にメンテナンスを」より

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