・・・いろいろと手数のかかる客でしたので恐縮ですが、また、いつの日かお目にかかれればと思っております。はい。お心遣い、主人に申し伝えます。大変お世話になり、ありがとうございました。 (原文メール、改行省略、太字強調N研)
これは、中古住宅診断のご依頼を頂いたK様からの、診断実施後にいただいた、お礼メールの最後のところです。
謙遜されて「いろいろと手数のかかる」と表現されていますが、これは実はK様から最初に私たちN研(中尾建築研究室)の問い合せメールにコンタクトいただいてから、1年半近く、時折のやり取りがあったことを、おたがいに意味しているからでした。
その間、いくつかの候補が浮かんでは消えて、ようやく今回ある物件の診断(インスペクション)をご依頼いただきました。本件は、売手が個人ではなく不動産会社、物件はリフォーム済み・・・いわゆる「買取再販住宅」でした。
目次
はじめに:終の棲家と一期一会(中古住宅インスペクションへの期待)
終の棲家、あるいは、それに近いお住まいを、ずっとお探しになられてきたご様子。
最初のお問い合わせ以来、いくつかの候補物件について、やり取りしたメールから、そう感じられました。
最初の候補は、K様お好みの眺望が得られそうな中古物件ということで、診断のお問い合わせがありました。こちらから差し上げたメールのお返事に、
・・・このたびは本当にお手数をおかけし、また、遠隔地に関わらずご承諾下さり、心より安堵いたしております。ご面倒でも、どうぞ宜しくお願い致します。うれしくありがたいお返事をありがとうございました。ご縁に感謝いたしております。(原文メールのまま、改行省略)
と、ありました。依頼者様のお人柄がしのばれるメールでした。
眺望に惹かれた、はじめての中古住宅
そして、事前のやりとりの中で、ちょっと複雑な敷地のようなので、再建築可能な敷地かどうかを念のため不動産会社に確かめてから現地に行きましょうか、ということになったのですが・・・
・・・電話での連絡だったので、ちょっと話したのですが、建て替えのことを言うと、「申請や設計士にも金がかかる。フルリフォームがよいのでは?」と、延々リフォームの話をされました。・・・(原文メールのまま)
再建築可能な敷地かどうかについての明確な返事が来ないまま、経緯は省略しますが、やがて立ち消えとなってしまいました。
現地診断に至らなかった中古物件、依頼者様の静かな焦り
しばらく間をおいて、今度はどうでしょうと、まったく別の物件についてのご相談。かなり以前に開発された住宅地の一角で、周辺の道路状況も良く、再建築の問題はなさそうとのお話。ところが、診断の予定日も決めた段階で、
・・・売れてしまいました。(原文メールのまま)
さらにその後、いくつかの候補についても諸事情で現地診断には至らずしまいでした。
こちらから連絡差し上げた、あるメールです。
・・・○○市住宅の件、承知いたしました。ここは焦らず、じっくり次をご検討なさってください。またお手伝いさせていただきますので。(原文メール、改行省略)
既存(中古)物件の注意点などをお話ししましたが、それに対してK様からお返事をいただきました。
・・・仰ること、よくよく納得できます。不動産業界は今、移住者のための中古住居を扱う部門は好景気で、どの業者も忙しくしています。その分、以前より客を粗略に扱う結果になっていると思います。この数年間、物件がかなり高騰しているにもかかわらず、入れ食い状態のように売れていく姿を、多く見てきました。(以下略)(原文メール、改行省略)
これは、K様とのメールのやりとりのごく一部ですが、昨今の中古住宅の状況について、まさに購入希望のお立場からの実感として、焦りの感じられる内容でした。
一期一会・・・ばかりとは限らない、中古住宅インスペクション
住宅診断(ホームインスペクション)は、ご依頼を頂いた物件を調査・診断し報告するという、まさに一期一会のお仕事ですが、新築住宅の内覧会のように、確実に対象物件が唯一あるのと異なり、中古住宅の場合、それを購入するかどうか決めていない場合では特に、売手、買手双方の事情によって、いわば対象が揺らぐことがあります。
あまり語られないのですが、中古の場合は特に、このK様のように、物件はそこそこ気に入っているのだけれど、まだ購入するかどうかまでは決めかねている、という場合もあります。そのために、診断の結果も参考にして購入するかしないかを決めたいという依頼者様もいます。
もちろん、購入の最終判断は、自己責任。
その点は、皆様もちろんよく理解されてはいますが、やはり判断材料は欲しい、というのが本当のところでしょう。
リフォーム済み・・・買取再販物件について
そして年が改まり、しばらくぶりのご連絡。
事前情報から、敷地自体に問題はなさそうで、そしてご主人様がその住宅付近の風景を気に入っておられるとのお話しで、それならば今度こそ現地で実物を拝見しましょう、となりました。
今回は、リフォーム済みの物件で、売主は個人でなく不動産会社とのお話しでした。
いわゆる買取再販住宅です。
中古住宅の購入:「仲介」と「買取再販」について
中古住宅の売買には、一般には不動産会社(宅地建物取引業者)が関わります。
この不動産会社の関わり方(販売形態)は、大きく「仲介」と「買取再販」のふたつに分かれます。
中古住宅の売買 |
仲介 |
買取再販 |
売買の形態 |
物件の売主が不動産会社と媒介契約を結び、不動産会社が買主を募集する |
個人や法人から不動産会社が物件を買い取り、必要に応じてリフォームをした上で販売する |
売主 |
(もとの所有者である)個人や法人 |
(その物件を買取った)不動産会社 |
仲介手数料 |
必要 |
不要 |
消費税 |
個人→個人の売買の場合かからない (仲介手数料には消費税がかかる) |
物件価格のうち建物部分にかかる |
物件に欠陥が見つかった場合の不動産会社の責任 |
仲介の不動産会社は責任を負わない |
売手の不動産会社(宅地建物取引業者)は、2年以上の売手責任(契約不適合責任)を負う |
買取再販住宅は、既存住宅(中古住宅)の流通促進やリフォーム市場の活性化が期待されることから、買取再販住宅のうち一定の要件を満たすものについて、個人の買手には所有権移転登記にかかる登録免許税が軽減され、売手については不動産取得税が減額されるという特例措置が設けられています。
この「買取再販で扱われる住宅の取得に係る特例措置」(国土交通省)の対象となる買取再販住宅は、さらに住宅ローン控除(減税)においても、新築住宅と同様の優遇を受けることができます。
「買取再販」とひとくくりで言うけれど・・・
以上は、買取再販をテーマとするコラムなどで良く見かけるお話でした。さらに・・・
新築物件の価格が高騰して、住宅購入希望者にとって、次第に手が届きにくくなっている状況で、割安感のある中古住宅への関心が高まりつつある、という需要側の事情が一方にあります。
そして、これまでの買取再販専業事業者や中小不動産事業者に加えて、大手新築住宅系事業者であるハウスメーカーやビルダー、あるいは従来からの中小リフォーム会社などの、買取再編への新規参入、といった供給側の増加という事情がもう一方にあります。
このように、買取再販住宅については、需要・供給双方の拡大傾向が指摘されています。
しかし、買取再販住宅の増加といっても、まだまだマンションを対象とするものが多く、木造の戸建て住宅はそれほど多くないと言われています。
マンションは、構造体がRC(鉄筋コンクリート)造で、しかも共用部なので、構造体に手をつけることなく、専有部だけをリフォームすれば良く、供給側である事業者にとって構造に関するリスクは小さいので、そのことも参入障壁を低くしていると言えます。
マンションのリフォーム済み物件の竣工内覧に行ってみると、玄関ドアから内部、窓サッシの内側は、新築マンションと変わりません。
一方、木造の中古戸建て住宅の場合は、柱や梁などの木部の状態や、基礎と地盤の状態など、構造体の状況や、雨漏りや蟻害(シロアリの害)の有無などの問題があります。買取再販事業者は少なくとも2年間の売手責任を負うので、仕入れる物件について、こうした問題のリスクは小さくありません。
木造戸建てのリフォームでは、事業者としては、購入予定者への訴求と事業の採算性をにらみながら、こうしたリスクも念頭に置いて、仕入れた物件にどこまで手を入れるかを判断する必要があります。
そして今回、K様の物件が、そのリフォーム済みの木造戸建て住宅、いわゆる買取再販物件でした。
「リフォーム済み」~ その「光」の部分
そもそも、既存(中古)住宅には、「不安」、「汚い」、「わからない」といったマイナスイメージがあります。
「不安」、「汚い」、「分からない」:国土交通省の資料『既存住宅の流通促進に向けて』(平成28年)の中で、住宅購入者アンケ-トなどから抽出した3つのキーワード。既存(中古)住宅から払拭すべき3つのネガティブイメージで、これが「安心R住宅」制度(特定既存住宅情報提供事業者団体登録制度)の創設(平成29年告示)につながっている。以降、中古住宅に関するサイトでは、この3ワードが定型句のように使われるようになった。
これは、「品質上の不安、不具合の懸念」、「古いので、汚い」、「選ぶための情報が少ないので、わからない」ということです。
リフォーム済みの中古物件では、まずはこのうちの「汚い」イメージを払拭して、「既存(中古)住宅だけれど、きれい」というイメージに変える効果が期待できます。
このことは、中古住宅の割安感とともに、「リフォーム済み」物件の「光」の部分と言えますね。
現地集合、診断開始
診断日当日、約束の時刻より少し早めに到着し、機材を降ろしてから、敷地周辺や住宅の外部を観察しました。
敷地は昔、このあたりを造成してつくられた住宅地の奥のほうにありました。ほぼ矩形の敷地の一辺が造成時の擁壁になっていて、K様はこの古い擁壁が建物に影響していないか気にされていました。
築35年の住宅で、南側に広めのお庭、その先は水田で視界はずっと開けています。
枠組壁工法、いわゆるツー・バイ・フォーの木造戸建て、外壁は全面再塗装済み、屋根の化粧スレートも再塗装済み。
外回りを観察しはじめたところに、K様ご夫妻が到着。ご挨拶と業務委託契約書のサインを終え、診断を開始しました。
外回りの状況
外部については、まずは診断の定石どおり、基礎、外壁、屋根、軒裏、開口部、金物、玄関外部床などを観察しました。
懸念されていた擁壁は、高さが1m数十センチで、数箇所で表面のモルタルの剥がれが若干見られたものの、内部のコンクリート部分に著しい割れ等は見られませんでした。
目視による限りでは、擁壁の倒れや天端のあばれなども見られず、住宅の基礎全周にも著しいひび割れは見られないので、室内で床の傾きの有無を確認して、間接的に擁壁が動いていないか確認してみましょうと提案しました。
また、屋根の化粧スレート部分は再塗装されていて、塗装前の状況は表面からはわからないので、後ほど小屋裏(屋根裏)の進入調査のときに、屋根下地(野地板)に雨染みなどが見られないか確認してみますとご説明しました。
室内の状況
室内については、
・壁、天井のクロスは、物入れ、押入れ内部まで含め、すべて更新(ただし和室天井の化粧ボードのみ既存のまま)
・床のフローリング、和室の畳、玄関タイルは既存のまま
・水回り(キッチン、浴室、洗面化粧台、トイレ)はすべて更新
となっていました。
水回りがすべて新しくなっていて、壁・天井のクロスは、居室や廊下だけでなく、物入れや押入内部まで貼り替えられているので、一般消費者が中古住宅について抱く懸念のうち、「汚い」イメージの払拭には効果がありそうです。
次に、床の傾斜について、デジタル水平器で、室内の各所を簡易的に測定してみました。壁などのタテ方向の倒れは、最後にレーザー水平器で確認しました。
デジタル水平器では、床の仕上材表面の凹凸にも多少左右されてしまうので、レーザー水平器も併用しましたが、中古住宅の床勾配としては、おおむね良好と判断しました。
床面に著しい傾斜が見られなかったので、間接的にではありますが、擁壁の倒れの可能性は少ないと考えられます。敷地周辺が造成後35年以上経過していることと考え合わせると、地盤が不同沈下して家が傾くおそれは少ないのではないかと判断しました。
屋根裏野地板、床下木部について
ユニットバス天井点検口から下屋(げや)の屋根下地を観察し、また、2階和室押入れ天井から小屋裏(屋根裏)に入って、屋根下地材(野地板)表面に雨染み跡がないか確認しましたが、いずれも雨漏りの痕跡は見られませんでした。
このことから、現時点では、屋根面からの雨漏りの可能性は少ないと判断しました。(なお、これら天井内の他の状態については、後述します)
また、床下の木部については蟻害(シロアリ害)などは見られず、床下の断熱材も当時の設計図面通りに設けられていました。
リフォーム済み木造戸建て住宅、その「光」の部分
このように、このリフォーム済み住宅の、いわば表の部分については、外部にあっては、外壁や屋根の塗り替えが行われており、内部にあっては、住宅設備の全面更新や壁・天井のクロス張り替えなど、既存(中古)住宅の「汚い」イメージが払拭されています。
また、床や壁の傾斜に著しい不具合が見られず、雨漏りの可能性も低く、また蟻害も見られなかったことなどから、品質上の「不安」もある程度払拭されたと言えるでしょう。
これらが、リフォーム済み物件の良い部分、いわばリフォーム済みの「光」の部分と言えるでしょう。
しかしながら、敢えてきついことを言うならば、このリフォームに際して、どこまでこの建物の状況を調査した上で工事を行ったのかという点で疑問があります。
「リフォーム済み」~ その「影」の部分
リフォーム済み部分の「見えないところ」を診る
リフォーム済み物件は、(少なくとも表面上は)中古の「汚い」イメージが拭われるので、価格に割安感があるものは、一般人が住宅購入を検討する場合に、対象としやすいと言えます。
課題は、前述したように、特に戸建て木造住宅の場合、どこまで手を加えたかということ。
それは、表面上だけでなく、できうるかぎり建物の「裏側」の部分、たとえば天井内や床下などから、住宅の状況を確認した上で、手を加えているかということです。
私たちN研(中尾建築研究室)では、それを「見えないところ」と呼んでいますが、それは、一般の方がまず目にしないところも診るという趣旨です。
リフォーム済み浴室、洗面脱衣室~その「見えないところ」
洗面脱衣室は、洗面化粧台を取替え、壁、天井のクロスを貼り替え、床のビニールシートも取替えられていました。また、浴室もユニット・バス(UB)を取替えられているので、古い、汚いイメージはありませんでした。
しかし、UBの天井点検口から天井内を見渡したところ、このリフォーム工事の問題点を指摘できました。
洗面脱衣室とUBは、その上に2階がないところ、下屋(げや)にあたる箇所にありました。そこで、天井内を覗くと、その上の屋根裏が見えます。
ここは一般の人にとっては「見えないところ」で、UBの換気扇のダクトや配線があります。
問題は、①UB上の断熱材がないこと、②UB側面の外壁側の断熱材が確認できないこと、の2点でした。
言葉では分かりにくいので、略図と写真で見てゆきましょう。
①UB上の断熱材がない、洗面脱衣室上の断熱材が乱れている
写真をご覧いただいても、こうしたところをはじめて見る方には理解しづらいかと思いますが、次の写真は、UB天井上から洗面脱衣室の天井上の方向を見たところです。(略図左)
写真からお分かりのように、天井上全面に敷設されていなくてはいけない断熱材(グラスウールのマット)がめくれたり、乱れていて、せっかくの断熱材が本来の役割を果たしていません(断熱欠損)。
ここは、上の略図左のAで示したところです。
なお、今日の断熱の考え方(住宅を断熱材で隙間なく包む)ではBの位置(写真左)も断熱すべきところですが、この住宅が建てられた頃はこうした考えはまだ希薄だったのでしょう。
次の写真は、上の写真の続きにあたり、洗面脱衣室の天井上からUBの上部にかけてのところです。洗面脱衣室天井にある断熱材が、UB天井上で途絶えてしまっていて、UBの上が断熱されていない状態になっています。
これは略図右のCの部分です。UBの上に天井を組んで断熱材を敷くか、この略図のように屋根断熱とすべきです。
こうした「断熱材で隙間なく包む」という考え方は、最近では良く知られるようになってきていて、内覧会で拝見する浴室で、下屋にあるUBの天井裏や、2階UBの天井上には、ほとんどの場合、断熱材がしっかり敷設されています。
②UB側面の外壁側の断熱材が確認できない
先ほどの略図右のDの部分は、UBが外壁に面する部分で、ここはUB設置前に断熱材を貼り、それがCの天井(屋根下)断熱材につながっている必要があります。壁内部は、直接見ることができませんが、UB上部から観察できた範囲では、断熱材は見られませんでした。
せっかく既存浴室を撤去して、新たにUBを新設したわけですから、既存を撤去した際に外壁側に断熱材を貼るべきでした。
UBを新設したのに、壁も天井も断熱されていない浴室となってしまいました。
雨漏りなどのような、まったくの「欠陥」とはちょっと異なりますが、冬場、浴室が暖まりにくく、エネルギーロスが大きいという問題は残ります。
リフォーム済み2階天井~その「見えないところ」
2階の各室も、壁、天井のクロスはすべて貼り替えられていました(和室天井の化粧石こうボードのみ既存のまま)。
和室の押入れは、天井点検口まで含め、すべてクロスが張り替えられていました。ということは、点検口を取り外した際、天井内を見る機会はあったことでしょう。
点検口から入って、小屋裏(屋根裏)内部を観察しました。先述したように、屋根下地の野地板には雨染み跡は見られませんでした。
しかし、天井断熱の断熱材が著しく乱れていて、各所に写真のようなめくれやすき間が見られました。これは、地震なとの揺れによって自然に生じたずれとは異なり、天井内での配線工事などの際にめくられて、そのままにされていたものではないかと思われます。
せっかく天井点検口の表面のクロスまで張り替えのですから、その際に点検口から天井内部をわずかでも確認すれば、極端なすき間や乱れには気がついたはずで、多少はすき間を補う程度の配慮はできたのではないでしょうか。
事業ですので予算の制約があるのは当然ですが、先述の外壁の断熱材欠如や、こうした天井断熱材の著しい乱れについては、リフォーム工事に入る前に確認して、対応すべきだったのではないでしょうか。
ここまでの断熱材の乱れや欠如に関しては、後日報告書に詳述しました。これに対して、K様も強く関心を持たれて、メールをいただきました。
・・・(下屋および小屋裏の断熱材についての)コメントは僭越ながら、第三者の診断士として非常に客観的かつ公平冷静明晰なご指摘で・・・ (原文メール)
窓サッシ~その「見えないところ」
今日では、戸建て、マンション問わず24時間換気という考え方は良く知られていて、住宅の居室には給気口や換気框(かまち)があり、廊下を経由して、トイレや浴室などの換気扇からゆっくり排気するのが一般的(第三種換気)です。(他に、給気・排気とも機械で行う、第一種換気という方法もあります)
しかし、この住宅が建てられた頃には、キッチンの換気扇と、せいぜい浴室の換気扇くらいしかなかったようです。洗面脱衣室やトイレは窓をジャロジー(ガラスの羽根の可動式ルーバー)としているだけで、換気扇はありません。
LDK、洋室や和室の窓には、サッシの上が換気框となっていて、サッシを閉めている時は、ここでわずかに換気を行うようになっています。主に換気は窓開けで、という考えだったのでしょう。
換気框は、ツマミをスライドさせて、スリット部分を開閉するようになっていますが、この住宅では一箇所の窓を覗いて、どの部屋の窓のツマミもスライドできませんでした。開閉困難な換気框ばかりでした。
リフォーム工事のクリーニングの際に、こうしたところは掃除して動くようにしておくべきでしょう。
最近のサッシメーカーのサイトなどには、換気框の取外し方法や内部のフィルターの洗浄や交換について説明がありますが、この時期のサッシの換気框の掃除方法などについては知られていないでしょうから、もしこのまま引渡しを受けたら、ずっと開閉できないままになってしまうかもしれません。
リフォーム済みキッチン~その「見えないところ」
キッチンは流し台、換気フード、吊り戸棚など一式交換されていました。壁面も新しいキッチン・パネルとなっていて、リフォーム済み物件らしく「きれい」なキッチンになっていました。
しかし、キッチンの床下に入って、流し台の下を見たところ、ガス管や排水管を床に貫通させるために、床下断熱材が大きく欠き込まれてそのままになっていました。さらに、断熱材の端部の一部が外れて、落ちかかっていました。
せっかく予算をかけてキッチンを全面リフォームしたのに、その床下の、一般の人には「見えないところ」がこうした状態なのはがっかりしますね。おそらく、この工事を発注した側も、工事の責任者も、職人まかせにして、工事完了後に床下の確認をしなかったのでしょう。
キッチンの床には、床下収蔵庫を兼ねた床下点検口が設けられているので、流し台の床下は工事関係者であれば簡単に覗くことができます。さすがに、見えませんでしたという言い訳はできませんね。
バリアフリー化~改修可能箇所と困難箇所
住宅のバリアフリー化と大袈裟に構えなくても、今日では住宅の各室間には床段差を付けないことが当たり前ですね。また、基準法が改正されて、階段には手摺を設けることが法的にも必要とされます。
しかし、築35年のこの住宅では、残念ながら段差だらけです。たとえば、廊下と洗面脱衣室の段差、廊下とトイレの段差、LDKと和室の段差などがあります。
これらの段差は、躯体(構造体)そのものに手を加えなければならないので、仕上げレベルのリフォームでは対応困難です。
K様もその点は納得されていて、市販の「段差解消スロープ」でも付けましょうか、とおっしゃっていました。
2階に上がる階段には、35年前には手摺設置が義務づけられていませんでした。
それは仕方ないことですが、ひとつ残念に思うのは、リフォームでクロスを貼り替える前に、手摺を受けるための補強材を取り付けておけなかったことです。
メンテナンスについての注意点~中古住宅こそ情報提供が大切
診断結果の報告書にはメンテナンス上の注意点も記載しましたが、本当は事業者が情報提供するのが望ましいと考えます。
中古住宅は「わからない」という懸念を払拭するための情報提供です。
たとえば、いくつか取り上げてみると、①玄関吹き抜け上部照明のメンテナンス(電球の交換など)、②浄化槽用ブロア(エアポンプ)のメンテナンス、③化粧スレート屋根のメンテナンス、などがありました。
①玄関吹き抜け上部照明のメンテナンス
玄関ホール上部は吹き抜けとなっていて、良い雰囲気を醸し出しているのですが、その天井に吊り下げ型の照明器具が付いています。
この照明位置がかなり高いため、通常の高めの脚立でも電球に届かないので、交換に無理があります。実際、点灯しませんでした。
これは、当初の設計上の問題と言えますが、電球は入居者において交換、などと無関係を決め込むのでなく、せっかくリフォームを行ったのであれば、引渡し時に、電球の交換に関してアドバイスするくらいであって欲しいと思います。
②浄化槽用ブロアのメンテナンス
この地域では、各⼾の排⽔はそれぞれの浄化槽を経由して放⽔します。次の写真は、浄化槽のためのブロアー(エアーポンプ)です。
ブロアーとは、浄化槽内に空気を送り込む装置で、送り込まれる空気によって、浄化槽内の微⽣物を繁殖させ汚⽔を浄化させます。ブロアーが故障してしまう と、この微⽣物が死滅し、悪臭を発するようになってしまいます。
それまで下水道の整備された都市部で生活されていた方は、そうしたことはおそらくご存じないでしょう。
ですからブロアーのメンテナンスの必要性と、この写真のブロアーのまわりには落ち葉などがまとわりついてしまっているので、定期的にある程度清掃しておくことをお知らせしておくべきでしょう。
③化粧スレート屋根のメンテナンス
築35年目のスレート屋根については、中古住宅ならではの注意点として、大きくふたつをお知らせしました。
(1)理想的にはそろそろ葺替えの時期にさしかかっているので、もし小屋裏で野地板に雨染みなどが見られなくても、次の塗装やり替え時期である10年後までに葺替えを検討することが望ましいこと。
(2)35年前のスレート製品には、アスベストが含有されている可能性があり、現状のように葺かれた状態では、まず問題はないけれど、撤去の際に割れたり欠けたりするとアスベストが飛散して健康上良くないので、もし葺替えを行う場合は、石綿(アスベスト)取扱いのできる業者に依頼することが望ましいこと。
外壁については、これも再塗装されているので、現状からは大きな問題点は見られないものの、外壁についても理想的には10年おきの再塗装、シーリング打ち替え(一般的なシール材の場合)が望ましいことなどをご説明しました。
リフォーム済み木造戸建て住宅、その「影」の部分
以上のように、「光」の部分が、表(おもて)の部分、人目に触れる表面を改修しているのに対して、一般の人が眼にしない裏の部分については、いくつかの課題が見られました。
いわば、戸建てリフォーム物件の「影」の部分です。
再販のために、せっかくお金をかけてリフォーム工事を行うのであれば、手を加えるか否かの判断の前に、上で見てきたような、建物の表面だけでなく、その裏側についても、まず状況を調査しておくべきでしょう。
まとめ ~ 戸建て住宅買取再販物件の「光」と「影」
今回は、リフォーム済みの木造戸建て中古住宅のうち、買取再販住宅について事例をもとに考えてみました。
もちろん、中古の戸建て住宅をいったん躯体(骨組み)まで戻して、そこから造り直すというような、フル・リフォームのような形態もありますから、今回指摘した「影」の部分がすべてに当てはまるわけではありません。
その点はご承知いただいた上で、今回のまとめをしてみましょう。
①「買取再販住宅」と、ひとくくりで言われるけれども、対象が同じ既存(中古)住宅でも、RC造マンションと木造戸建てでは、異なる点もある。
②マンションの場合は、構造体は共用部でもあり、そこに手を加えることはしないで、対象住戸の専有部の建築と設備を改修する。間取りの変更(和室を洋室に、2室を1室に、場合により水回りの若干の移動など)も比較的容易。
③木造戸建てでは、構造体から屋根、外壁まで含むすべてが対象となる。どこまで手を加えるかは、事業者の判断に委ねられる。事業者は、当然ながら、事業採算性との見合いでリフォーム工事の範囲と程度を判断することになる。
④その場合に、どうしても、来客の目に触れやすい「表」の部分の改修や更新に予算の多くが割かれがち。今回の事例で言えば、水回り設備の全面更新や、外壁・屋根の全面塗装など。これが、いわば、戸建て住宅買取再販の「光」の部分に該当。
⑤ただし、買取再販事業者には、個人の購入者に対して2年以上の保証責任が伴うので、構造、雨漏り、蟻害等のリスクに対してはそれなりに慎重になる筈(保険への加入なども含め)。このことも、買手からすれば、「光」の部分と言える。
⑥しかし、その一方で、今回の事例で見たように、たとえば断熱性能(断熱材の欠如、敷設乱れなど)や、現行法への適合(階段手摺、24時間換気など)については、優先順位を低く考えられて、リフォーム工事の対象外とされる場合もあるのではないだろうか。
⑦問題は、リフォーム工事に際して、事前に既存の状況診断を行い、物件の問題点を把握しているか否かという点。そして、望ましいのは、予算の関係上、手を加えられなかった箇所については、購入予定者にそれを開示するようにすること。
⑧現実的には、そうした事前の住宅診断や問題箇所の開示に対しては、むしろ消極的な事業者も少なくないと思われる。そこに、住宅診断(インスペクション)の役割があると言える。
おわりにかえて ~ 依頼主様からのコメント
診断後、報告書をお届けし、K様からメールが届き、お礼とともに次のようなご連絡をいただきました。
・・・本日、買い付け証明書を不動産側に送付いたしました。(中略)「雨漏り・シロアリの2年保障」は必ずつけてくださいとお願いしておきました。・・・(原文メール)
数日後、N研(中尾建築研究室)の「お客様アンケート」もいただきました。
あまりに過分なお褒めの言葉で、引用させていただくのも気恥ずかしいかぎりですが、
仕事に対する態度・技術・お人柄ともに最高級のレベルと感じました。特に集中力が素晴らしく、午前中より数時間の仕事中、食事も休憩もせず、雨の中でカサもささず、外回りの調査を続け、(中略)プロに徹した姿勢は頭の下がるものがあり、この方以上の診断士さんは望めないでしょう。自信を持って、お勧めできるプロ中のプロです。(原文手書き、中略以外原文のまま)
今回は、リフォーム済み物件はその裏側を要確認、というお話でした。
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