私たちN研(中尾建築研究室)のホームページの記事で、一番検索される項目は「天井裏」についてのところだそうです。たとえば、このコラム・・・
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これは主に、既存(中古)住宅の屋根裏についての話題でしたが、新築住宅でも内覧会などで、屋根裏の進入調査は、ご依頼をいただくことが多いです。たとえば、お客様からの次のようなお問い合わせがありました。
○○○(住宅会社名)から、内覧会時に、ホームインスペクションの実施について了解をもらいました。(中略)また、「天井裏進入調査」「床下進入調査」のオプションもお願いできますか。
目次
まず、屋根裏の断熱のおさらいから・・・
内覧会で「屋根裏を診る」ということ
住宅の断熱検査は、ほんとうは内装下地施工前に行います。壁のボードが貼られる前に断熱材の施工状態を確認します。
内覧会では、そうした本格的な確認はできませんが、それでも屋根裏進入調査では、屋根裏断熱の状況を、そして、床下進入調査では床下の断熱の状況を、ある程度確認できます。
工事の各段階で検査が入るのが理想でしょうけれど、現実的には、そこまではしない・できないことも多いでしょう。
しかしそれでも、最近では、竣工時だけはプロに内覧会同行を依頼されることが多くなりました。そこで、内覧会の段階で、屋根裏のような「見えないところ」を診ましょう、ということになります。
屋根の断熱、天井の断熱
住宅の断熱は、断熱材や断熱サッシなどで「住宅をすっぽり包むこと」・・・これがいちばんの基本です。
当たり前じゃないか、と思われましたか?でも・・・
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これは、この「すっぽり包むこと」がされていなかった中古住宅の例でした。
はじめに、「天井断熱」と「屋根断熱」について
この話題を扱ったサイトはものすごく多いので、ここでは、両者の比較表として示しましょう。文字だけでは退屈でしょうから、図と写真も添えますね。
まず、ひとことで言えば、「天井で断熱をするのが天井断熱」、「屋根で断熱をするのが屋根断熱」です。
天井断熱 | 屋根断熱 | |
イメージ | ||
屋根裏の天井面に沿って断熱材を敷く | 屋根の勾配に沿って断熱材を施工(充填断熱と外張り断熱がある※1) | |
屋根裏進入調査での事例 | ||
断熱材は足元(天井の上) | 断熱材は頭上(屋根面に沿っている) | |
屋根裏(小屋裏)の状態 |
天井面から上は断熱されず外部空間となり、屋根裏は夏場には高温になる 屋根裏全体の空気が熱せられて、そこからの輻射熱で下の部屋が暑くなりがち |
屋根で断熱するので、屋根裏は室内とほぼ同じ環境になる 通気の空気層が熱せられるだけで、輻射熱の心配は少ない |
換気(通気) | 外部の空気と入れ替えるために、屋根裏の換気の確保が重要 | 断熱材の外側に通気層を設けて、屋根材で熱せられた空気を棟などから排出 |
断熱材の種類 | 無機質繊維系断熱材であるグラスウールやロックウールが一般的で、セルローズファイバーなど木質繊維系の断熱材を吹き込む方法もある |
充填断熱:グラスウール、ロックウール、セルローズファイバーなどの繊維系断熱材や、発泡プラスチック系断熱材 吹付け断熱では、発泡ウレタンなどの断熱材 外張り断熱:発泡プラスチック系断熱材 |
断熱材の厚み | 断熱材の厚みに制約が少ない(厚くできる) | 断熱材の厚さに制限を受けることがある(※2) |
屋根裏(小屋裏)の利用 | 屋根裏空間が利用できない(収納部を断熱材で覆えば屋根裏収納は設置可能) | 屋根裏空間が利用できる(屋根裏収納のほか、ロフト、勾配天井が可能) |
工事コスト(材料と施工手間) | 屋根断熱に比べコストは安い(断熱する面積が小さく、施工も比較的容易) | 天井断熱に比べコストは高くなる(断熱面積が広く、施工に手間がかかる) |
冷暖房空間とランニングコスト | 冷暖房の空間が小さくなる(天井から下の空間だけを冷暖房すればいいので、屋根断熱に比べ電気代が安くなる) | 冷暖房の空間が大きくなる(屋根裏も空調することになるので、その分、冷暖房のランニングコストが増える) |
※1.充填断熱:屋根構造(根太など)の内側で断熱、外張り断熱:屋根構造の外側(野地板の上)で断熱 ※2.充填断熱:屋根の厚さ(根太や登り梁の太さ)が限度、外張り断熱:断熱材の厚さに限度がある |
以上は、天井断熱と屋根断熱の特徴の比較でした。
しかし、実際に多いのは、「天井断熱」と「屋根断熱」の組み合わせ
屋根の複雑な形状や、屋根裏の利用が、断熱の方法に影響
特に都市部の住宅などでは、敷地に余裕が少ない中で目一杯に床面積を確保しようとしますが、その一方で、高さ制限(斜線制限)があるために、多くの屋根が高さ制限などの影響を受けた形状となっています。
下のふたつの図は、都市部でよく見られる住宅の例で、断面を模式的に表わしたものです。
左の図は、住宅密集地域などに見られる木造三階の戸建て住宅の例ですが、3階の屋根の一部が高さ制限のため「母屋下がり」となっていて、内部では「勾配天井」となっています。
右の図は、最近よく見られる片流れ屋根二階建て住宅の一例です。北側方向の隣地へ日影の影響を少なくするため、そして、好まれる外観として、こうした片流れの屋根の住宅は多くなりましたね。この例では、「母屋下がり」の端部(図では2階WCの上部)と、屋根裏収納の天井の一部が「勾配天井」となっています。
母屋下がり(もやさがり)というのは、高さ制限などによって、屋根の軒高が一部低くなっているところです。屋根が低くなっているので、その部分は、室内から見ると勾配天井(斜め天井)となっています。
このふたつの断面図に記入しましたが、本来、天井断熱を基本としている住宅でも、この「母屋下がり」あるいは「勾配天井」の箇所の断熱は、屋根断熱的な納まりとなります。
右の図のように、天井断熱をしている屋根裏に屋根裏収納(小屋裏収納)を設ける場合も、屋根裏収納の高さの一部が屋根面と干渉(ぶつかる)する部分は勾配天井となり、やはり屋根断熱的な納まりとなります。
むしろ、屋根形状や天井のかたちから、天井断熱と屋根断熱の組み合わせとなっているわけですね。
同じ屋根のかたちでも、天井のかたち次第で、断熱の方法に影響
ところで、当然と言えば当然ですが、同じ屋根の外形でも、最上階の天井の形状をどうするかによって、断熱の形式も変わります。
参考までに図示してみました。前提として、木造二階建ての住宅で、屋根は両流れとします。
両者、住宅の外観(外形)は同じです。
左は通常の平らな天井で、一部母屋下がりがある場合で、右は二階の天井を屋根なりにいっぱい高くして吹き抜け的にした場合です。
もうお分かりのように、左は基本天井断熱で母屋下がり部のみ屋根断熱、右は全体的に屋根断熱、となりますね。
以上から、実際はこのように混成して断熱する場合が多いので、先ほどの天井断熱と屋根断熱の比較表は、どちらが良いかということより、それぞれ注意すべき基礎的ポイント、くらいにお考えください。
断熱で大切なことは、「包みこむこと」、「逃がすこと」、そして「入れない」・・・こと
断熱のポイントは、断熱材だけにあらず、ということ
では、お話を次に進めましょう。まず、以上のことを含めて、モデル的に表現した次の図をご覧ください。
ここには、これまでお話した断熱材を、黄色で示してあります。水色の破線は空気の流れ、そして、断熱材の室内側の赤色の線は防湿層です。
断熱のポイントは、3つあります。断熱材、通気層、防湿層、です。
(1)隙間なく包む:まず住まいを断熱材(開口部の断熱性能の高いサッシなども含みます)で「すっぽり包みます」。
(2)通気(換気)を確保:断熱材(ここではたとえばグラスウール)の外側に通気層(または、換気につながる天井裏)を設けます。これによって壁内結露を防ぎます。
(3)防湿層に配慮:断熱材の室内側に防湿層(たとえばビニールシートのイメージ)を設けます。これは部屋内の湿気を外壁の内部に入れないようにするためです。
では、もう少し詳しくお話しましょう。
(1)断熱材は隙間なく(断熱材ですっぽり包む)
これについてはすでに少し触れましたね。
断熱材には最初の比較表に挙げたような種類がありますが、大切なのは、隙間なく包むこと。屋根裏収納を断熱材で包まなければ、夏場殺人的な暑さになりかねませんね。
このことは最近では、ほぼ常識になってきましたが、既存(中古)住宅では要注意です。
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中古住宅では、時代が遡るにつれて、居室以外の場所には断熱材を敷かないという例も見られます。
忘れていけないのが、外部の開口部(つまり窓、扉)の断熱性能です。最近の新築住宅では複層ガラスは一般的になりましたね。断熱性能を高めるため、樹脂サッシも人気ですし、三重ガラスも少しずつ使われています。
このあたりは、住宅会社のホームページにはかならず登場するので、多くの方はご存じですね。
こうした断熱材がしっかり充填されても、しかし、その断熱壁の内部で結露が発生しては困りますね。
品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)という住宅の性能に関する法律がありますが、その性能評価のひとつに断熱性能があります。
その中に「結露の発生を防止する対策に関する基準」(以下、結露発生の防止基準)という項目があって、そこに「防湿層の設置」や「通気層の設置」が挙げられています。
(2)通気層の設置について(湿気を逃がす)
結露発生の防止基準には、次のように求めています。
屋根や外壁を断熱構造とする場合は、結露の発生を防ぐために、断熱層の外気側に、通気層を設けるか、または、換気上有効な措置を講じること。
この通気層とは、「断熱層の外側に設ける空気の層で、両端が外気に開放されたもの」です。
先ほどの図の青色の破線をイメージすると分かりやすいでしょう。そして、
断熱層に繊維系断熱材等を使用する場合はさらに、断熱層と通気層との間に防風層を併せて設置すること。
とあります。
この中の繊維系断熱材等とは、「グラスウール、ロックウール、セルローズファイバー等の繊維系断熱材、その他これらに類する透湿抵抗の小さい断熱材(例:吹付硬質ウレタンフォームのうち JIS A9526 A種3に該当するもの、など)」です。
また、防風層とは、「通気層を通る外気の断熱層への侵入を防止するため、防風性が高く、透湿性を有する材で構成される層」のことです。
しかし、文字で言われても全然・・・という方もいらっしゃるかと思います。
当コラムは視覚優先ですので、以前のコラムで描いた図を引用します。これなら多少お分かりいただけるでしょう。
なお、結露発生の防止基準で求めている「通気層の設置」には、通気層を省略できる条件がいくつか挙げられています。たとえば、湿気を通しにくい防湿層を設ける場合は省略して良いとされています。
1,2地域(北海道など)以外の地域で、一定以上の透湿抵抗(0.082㎡s Pa/ng以上)がある防湿層がある場合
(防湿層については次項でご説明します)
屋根断熱の場合、通気層を省略しない場合は、屋根面に沿って通気層と断熱材が並ぶので、通気層(おおむね30㎜程度)がつぶれて空気の流通を妨げてしまわないよう、野地板との間に通気部材(スペーサー)を取り付けてから断熱材を設置します。
下の写真は新築内覧会で、屋根裏(小屋裏)を拝見した時の例です。屋根裏収納の壁の点検口から進入したところです。天井断熱材の先に通気部材(スペーサー)が見えます。
この次の写真も同様ですが、これは図のような軒先付近の通気部材です。通気層が部分的にできてしまうので、その部分がネックになってしまわないよう、通気部材を設置します。
これらはいずれも天井断熱の場合で、断熱材がグラスウールなどの繊維系断熱材のケースでした。
一方、屋根断熱の場合では、下の右の写真のように、断熱材として、たとえば発泡ウレタンを吹付ける場合などは、通気部材の全面に吹付けることになります。この場合は、内覧会では通気部材と通気層を見ることはできません。吹付け前に確認しておく必要がありますね。
写真は、天井断熱(左)と屋根断熱(右)の屋根裏(小屋裏)です。
天井断熱の場合は、いわゆる「小屋裏換気」が必要となりますので、小屋裏換気孔を設けます。軒裏で給気と排気を行う場合は、効率が悪くなるので、換気孔の必要面積が大きくなります。
軒裏から給気し、上部の換気棟から排気する方法は効率が良いので、必要換気孔面積は小さくて済みます。
なお、小屋裏(屋根裏)の換気を図で表したものは、こちらをご覧ください。
屋根断熱の場合は、断熱材の外側には先ほどの通気層を設けます。通気層の厚さは30mm程度が標準です。通気層への給気のため、軒裏等には換気口を設置し、換気棟から排気します。
(3)防湿層の設置(室内からの湿気を入れない)
結露発生の防止基準では、次のようにも求めています。
繊維系断熱材等を使用する場合は、外気等に接する部分に防湿層を設けること。
この防湿層とは、「断熱層の室内側に設けられ、 防湿性が高い材料で構成される層で、断熱層への漏気や水蒸気の侵入を防止するもの」です。
繊維系断熱材等とは、前にも出てきましたが、「グラスウール、ロックウール、セルローズファイバー等の繊維系断熱材、その他これらに類する透湿抵抗の小さい断熱材(例:吹付硬質ウレタンフォームのうち JIS A9526 A種3に該当するもの、など)」です。
なおここで、ウレタン吹付け断熱材は、一見湿気を通しにくいように思われるかも知れませんが、木造住宅で一般的に採用されている「A種3」のタイプは、透湿抵抗が小さい、つまり、水蒸気を通しやすく防湿効果のない断熱材であることには注意が必要です。
「防湿層の設置」にも、省略できる条件がいくつかあり、「透湿抵抗比が、たとえば5,6地域(東京など)にあっては、外壁2、屋根(天井)3以上であればこの限りでない。」などと、ちょっと専門的になりますが、細かく決められています。
まとめ:屋根裏の断熱
では、今回のまとめです。
①屋根裏の断熱には、天井断熱と屋根断熱がある。それぞれ特徴があるが、都市部などの複雑な屋根形状で、しかも建物高さに制約があるような場合では、たとえ天井断熱を主体としても、部分的あるいはかなりの部分で屋根断熱的な納まりとせざるを得ない場合があることに注意。
②屋根裏を含む、住宅の断熱で注意すべきことは、1)建物を断熱材で包み込むこと、2)通気層(または小屋裏換気)の設置、3)防湿層の設置、の3点。
③通気層と防湿層は、壁内結露の発生を抑制するために必要なもの。通気層は、断熱材部分に侵入した湿気を排出するためのもので、防湿層は室内の湿気を壁内に侵入させないためのもの。
④繊維系断熱材等の断熱材の外部に通気層を設ける場合、断熱材と通気層の間に防風層を設ける。
今回は、屋根まわりを中心とした断熱のお話でした。
断熱材は建物の壁や天井裏に隠れてしまうので、一般の方が普段ほとんど気にされない「見えないところ」です。しかし、このところ省エネへの関心の高まりとともに、住宅の断熱性能も以前に比べて格段に向上してきました。
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