たとえば、住宅の性能(品質)でまず重視するものは、と聞かれたら、「住宅の構造」とか「耐震性能」を挙げる方が多いでしょう。このコラムでも、暗黙のうちに、「まずは構造(耐震)そして省エネ・・・」といった感じでお話しすることが多いですね。
ちなみに、この2番目の「省エネ」については、2025年に「義務化」となる、といったお話をしました。
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そして、実はこの2025年に、戸建て住宅の「構造の審査」についても、これまで特例的に緩かった免除措置も緩和の度合いが狭められることになりました。
法改正の流れとして、建築物省エネ法の改正と併せて、建築基準法の改正が行われます。
目次
戸建て住宅の確認申請では、「構造の審査はしない」ということ、知っていましたか? ~ それが、いわゆる「4号特例」問題
以前、新築住宅の「内覧会」に関連して、
「在来木造戸建て住宅の構造については「4号特例」問題というのもありますが、これについてはいずれまた別のところで扱います」
と、お話して、そのままになってきていました。次のコラムの最後のほうです。
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木造戸建ての特別扱い、何が特別なのかというと・・・
さて、「4号特例」・・・などと聞くと、いかにも業界の専門用語っぽくて、スルーしたくなるかもしれませんね。でもその中身を知ると、「木造戸建て(の構造)を軽視してきたのか!」と、カチンとくる方もいらっしゃるかもしれません。
「4号特例」とは、
2階建て以下の木造小規模住宅など(4号建築物)は、建築士が設計を行った場合、建築確認申請時に構造の審査が省略される
というものです、少なくともこれまでは。
「4号建築物」:建築基準法第6条第1項第4号に該当する建築物
この説明では、小規模の住宅については、建築士に構造の判断を委ねるということになりますね。ほとんどの2階建て住宅は「4号建築物」ですから、建築確認申請に構造チェックの資料は添付する必要がありません・・・ということです。
実は、「構造の審査はしない」という特別扱い
もっとはっきり言うと、行政は、ほとんどの2階建て住宅については構造のチェックはしないということです。構造の安全性については、申請や審査は省略して、建築士のチェックに任せますということです・・・このこと、知っていました?
戸建て住宅を設計するすべての建築士は、正しく構造安全性についてのチェックを行っている。資料は申請に添付しないだけで、もちろん作成している。
ということですね。しかし、そう言われて、すんなり納得できますか?
「すべての」建築士・・・を、信頼していますか?あんな事件(後出)があったというのに。
何故こんなことになっているのか、少し回り道をして、その「歴史」を見てみましょう。
構造審査なし、その裏事情・・・「4号特例」の長い歴史
最初は、職員不足に対する緊急措置
実はこの「4号特例」という制度は、1983(昭和58)年に創設されました。当時は、今のような民間の確認審査期間はなかったため、建築確認や完了検査は行政の職員だけが行っていました。建築行政職員の不足に対するいわば緊急避難として、この制度は始められました。
そして、1999(平成11)年の改正建築基準法により、建築確認・検査の民間開放が行われ、確認・検査の人数不足が改善するきっかけとなりました。
いわゆる「建築士の犯罪」、そして「特例」の悪用・・・
しかし、2005(平成17)年構造設計の耐震偽装事件が発覚し、その時に4号建築物の耐震状況調査も行われ、「4号特例」を使った戸建て住宅で大量の構造強度不足が明らかになりました。これらにより、国土交通省はいったん「4号特例」を廃止する方向に傾きました。
それはそうでしょうね、誰が考えても・・・
厳格化による混乱、社会問題化の余波
しかし、2007(平成19)年、建築確認申請の厳格化を軸とした改正建築基準法が施行されました。これにより、建築確認申請は大混乱し、建築物の着工数の急減など社会問題化してしまいました。
このため、「4号特例」の廃止は見送りとなり、その後特例見直しの検討答申や意見書公表などがあったものの、「4号特例」はずっと継続されてきてしまいました。
これが、現状です。
法曹界からも指摘が
実は、これが問題であるというのは、建築や住宅の関係者だけでなく、法律家からも指摘されていました。
2018(平成30)年に、日弁連(日本弁護士連合会)は、「4号建築物に対する法規制の是正を求める意見書」という文書を出しています。
ここでは、「欠陥住宅被害が頻発する現状」を取り上げ、それは「4号建築物に対する現行法の特例的取扱い」によるものであり、「4号建築物に関する安全性を確保するために」現行法を改正すべきであるとしています。
ところが,それから(注:特例廃止の見送りから)約10年が経過しているにもかかわらず当該改正が 実施されることもなく,国土交通省は現時点において改正する意思を示していない。
そう批判していました。
置き去りにされてきた歴史の中で
「4号特例」問題は、戸建て住宅の構造安全性をどのように担保すべきか、というずっと置き去りにされてきた課題でした。
対象が戸建て住宅の多くに及ぶことから、耐震偽装~確認審査の厳格化の時のような社会的混乱を避けたいという思惑もあったでしょうし、業界側の反発を恐れていたのかも知れません。
話の内容がやや専門的であるために、おそらく一般の人にはあまり知られなかったのでしょう。しかし、ちゃんと説明を受ければ、消費者の立場からすれば、やはり不安材料ですね。
そしてようやく「4号特例」の見直し、対象縮小へ
これまでの特別扱いは、大きく縮小
こうした長い歴史のある「4号特例」ですが、2025(令和7)年には、大きく変わることになりました。
改正後は、
建築確認の構造審査が省略できるのは、平屋建て、床面積200㎡以下のみ。
2階建ての木造戸建て住宅は構造審査が必要。(2階以上、または延べ面積200㎡超)
となります。
これまでのような木造と木造以外という区分はなくなり、「4号」という建築物はなくなります(1~3号までとなります)。
ほとんどの住宅は構造審査必要に
これまで木造戸建て住宅の多くは構造審査不要でしたが、2025年以降は、戸建て住宅のほとんどは、建築確認で構造の審査を受けることになります。構造の検討をした計算書の添付が求められます。
多くの戸建て住宅について、構造安全性の検討なしに設計されて建てられるような最悪のケースは回避されることになります。
住宅の購入者あるいは建て主にとって、この改正は安心・安全につながるものではありますね。
消費者にとっての安心・安全のために
最低基準を定める「基準法」、質の向上を求める「品確法」
2000(平成12)年には、建築基準法が改正されて、木造住宅の構造基準が強化(壁のバランス配置や柱頭柱脚金物の接合法など)されることになり、今日の構造基準となりました。基準法は、最低基準を要求するものです。
それと同時に、新たな法律として「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」が制定され、住宅性能表示制度が始まりました。品確法は、質の向上を目指すものです。
今日、住宅の構造安全性について意識の高い方々は、住宅性能表示制度で示される耐震等級2や3を選択されます。基準法を満たすレベル(耐震等級1)では不十分であることを意識されているからでしょう。
ちなみに、耐震等級という考え方は「長期優良住宅」の要求基準のひとつにもなっていて、ここでは耐震等級2以上が求められています。
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「長く住める住宅」について考える
長く住める住宅 住宅の購入を考えた人なら、長期優良住宅という制度を耳にしたことがあるでしょう。そして、ネットで見たり説明を受けたりすると、まず税制上のメリットがあることを知り、その一方で技術的な認定基 ...
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実際は、最低基準が満たされているかだけの審査、しかし今回の特例見直しに期待される効果を考える
その一方で、購入する住宅が基準法レベルの構造安全性すら満たしているのかどうか、というのではあまりに心もとない状態でした。
構造躯体はまさに、私たちが言う「見えないところ」です。
そして、その躯体の構造設計の妥当性は、一般の人には判断しづらい、いわばブラック・ボックスです。
購入した住宅の設計図書の中に、構造図面のほかに構造計算書は入っていますか?
これまでは、そんなことさえ曖昧だったのではないでしょうか?これもまた、「4号特例」を口実とした悪習と言えるのではないでしょうか。あるいは、
素人には計算書など見てもわかりませんよ。
そう言って計算書を提出されなかったのではありませんか。しかし、素人には無理でも、プロの第三者なら見れば分かりますよね。
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