目次
1.真新しい「新築」でも、人が住めば、もう「中古」
一般に引用されるのは・・・
「新築住宅」とは、新たに建設された住宅で、まだ人の居住の用に供したことのないもの(建設工事の完了の日から起算して一年を経過したものを除く。)をいう。
お固い条文で恐縮ですが、これは「住宅の品質確保の促進に関する法律」いわゆる「品確法」の第二条にある「定義」にあります。(品確法は、住宅の「品質」を評価する「住宅性能評価」のおおもとの法律です)
ここから「新築」のポイントは、①建築されて1年未満、かつ②人が住んだことのないもの、という点です。
完成後1年以内でも人が住んだことがあれば築浅物件、つまり非新築=中古ですし、誰も住まずに1年を過ぎてしまった未入居物件も中古ですね。
真新しいご新居も、実は、住んでしまったとたん「中古」住宅となってしまっているのですね。
ちなみに、住宅性能評価や住宅状況調査では、中古でなく「既存住宅」と呼んでいます。「中古」の持つネガティブなイメージを払拭して、既に在る価値というイメージなのでしょうね。
2.「新築」は「中古」のはじまり!:工事完了は劣化開始 ~ メンテナンスを時系列で捉える
住宅診断では、新築時点の診断(内覧会での診断)と、中古(既存)住宅の診断とがあります。それはそれぞれ、スタート段階での不具合の芽をできるだけなくすこと、そして、その後の経年による劣化状況をその時々でできるだけ発見しようとするためです。
引渡しを受けた住まい、その住まいがこれからの時間の経過の中でどのようになるか、イメージできますか?目の前のまだ新しい住宅が、10年後、30年後・・・どのように劣化するでしょうか。
住まいの寿命はメンテナンスで変わります。なぜなら、劣化はもう始まっているのですから。
他物件の中古診断や自宅診断のデータから、お住まいの将来の姿を間接的に推測してみましょう。そして、住宅の引渡しの際に渡される「維持保全計画」や「メンテナンス・スケジュール」といった資料があれば、住まいの各部位の「劣化→改修→更新」の流れを掴んで、維持管理を時系列でイメージしておきましょう。
これまで日本の住宅は寿命約30年などと言われてきました(滅失住宅の築後平均経過年数)。しかしこれからは、たとえば長期優良住宅が3世代(約90年)を目標としているように、より長く住み続けられる住宅が求められています。それは、住まいの資産としての価値を長く保つことでもあります。
そのためには、住宅の質の高さとともに、適切な維持管理が必要になってきます。
3.「屋根」について:化粧スレート?それとも瓦?
前置きが長くなりましたが、この時系列で劣化を見る観点から、今回は「屋根」を取り上げてみましょう。
なぜ「屋根」か、ということですが、他でも何度も書いていますが、「屋根」は戸建住宅の部位のなかで、いちばん過酷な状況に置かれていながら、日常まず間近で見ることがないため、いちばん意識されにくいところだからです。外部である屋根面と、その内部側である小屋裏(天井裏)ともに、私たちの言う「見えないところ」になってしまっています。
新築ならスレート葺き、瓦葺きは中古、というイメージ?
屋根材と言うと、「新築」なら化粧スレート葺き、少し古めの「中古」は瓦葺き、というような漠然としたイメージがありませんか?
それならば、その「新築」の化粧スレート屋根の、10年後、30年後をイメージできますか?
スレート屋根は「軽い屋根」、瓦屋根は「重い屋根」。軽い屋根の方が、耐震上有利。だからスレート、で良いのでしょうか?
ここはメーカーの宣伝の場ではないので、屋根材の優劣をお話することはいたしません。そうではなくて、時系列の中で、メンテナンスの観点から屋根を考えましょう、というのがポイントです。
まずは、化粧スレート屋根の経年変化に関するコラムのご紹介
それでは、コラム集「診断とお客様の声」の中からいくつかご紹介します。
まずひとつめのお話しです。
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住宅診断結果報告、その数ヶ月後に起きたこと(化粧スレート葺き)
戸建てを持つ・・・ということは、維持管理はすべて自己責任。 最近では売り手側も、アフターケアもビジネス機会と捉えて、フォローするところが増えてきましたが、やはり維持管理の主体は所有者様ご本人。 &nb ...
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ここでは、ご自宅のメンテナンスに人一倍関心の高いお客様ですら、改修の優先順位のご判断で、「屋根」を後回しにされていたこと。そして、屋根部材の一部にやや深刻な劣化が見られますと、診断報告を差し上げて数ヶ月しないうちに、強風による破損を被られたというお話しです。
化粧スレート屋根を構成する金属板(棟板金など)の留め付けが緩く、補修が必要であることや、化粧スレート面の再塗装が必要な時期であることなどのレポートに対して、費用を工面して改修を考えますとのお返事をいただいた直後の被害事例でした。
もうひとつのお話しは、さらに古く築30年ながら、重量鉄骨造のお住まいで、駆体そのものがほとんど劣化していないことから、かえって外部の仕上の劣化にあまり対処されて来なかったという事例を取り上げました。
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駆体の頑健さの一方で、長く放置されてきたもの
住宅の劣化事象の中で、雨水の浸入や結露、あるいはシロアリの進入懸念箇所などに着目するのは、ひとつには、それらが腐朽や蟻害の原因となって、木造の柱・梁・土台など住宅の駆体(骨組み)に決定的なダメージを与 ...
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ここでは、「30年の重み」として、前半で外壁のサイディング、後半でスレート屋根を扱いました。特に、化粧スレートの場合、30年経過すると葺替えが必要となる時期で、次世代に引き継ぐための大規模改修で、全面的な更新をお考えになるようです。
ここは3階建ての都市型のお住まいですが、何故か屋根上に登る手立てがありませんでした。さらに、3階天井の直上は床版(ALC版)があり、屋根はいわば置き屋根で、局所的な漏水などがあっても、「屋根」の劣化を意識しづらいまま年月が経てしまったようです。
4.過酷な環境、しかし意外に意識されない「屋根」:化粧スレート屋根と瓦屋根のメンテナンス
新築住宅は化粧スレート屋根全盛ですが、中古(既存)住宅では、瓦葺き屋根もかなりあります。
瓦屋根に関連しては、次のようなコラムを書いてみました。
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見慣れた風景、しかし劣化は静かに進行して・・・(劣化診断調査)
私たちが住宅診断で指摘する、いわゆる劣化事象。 ところが、そこに普通に見えているのに、住まい手の方には「見える」のに「見ていない」、ということが意外とあります。 いわば、「風景の一コマ」化してしまった ...
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この中で、強雨時に瓦の裏側に入り込む雨水について触れましたが、これは後で述べる下葺材の劣化の問題に関係してきます。それがメンテナンスの工程設定に影響しますので、後ほど。
化粧スレート屋根と瓦屋根:メンテナンスの時系列比較
一般に良く言われる瓦屋根のメリットは、耐久性があり色褪せしないことや防火性能があることなどで、デメリットとしては、重量があるため台風や地震に弱いことなどが挙げられます。このデメリットについては、業界の反論もありますし、改良品も出ているので、いちがいに決めつけることはできません。
化粧スレート屋根と瓦屋根の比較で、両者に適切なメンテナンスが行われた場合、イニシャルとランニングのトータルコストはどうかという議論があります。一般論では、イニシャルコストはスレート屋根のほうが優位ですが、ランニングコストと葺替え時期とから、長期になるとトータルコストが逆転するという試算もあります。
これには前提条件に注意が必要で、単に仕上げ材の葺替え時期の問題だけでなく、下葺材の劣化・交換や補助材料の補修なども含める必要があります。これらを含めて、両者のメンテナンスを説明するために、次のような比較表を作ってみました。
化粧スレート屋根のメンテナンス
まず、これまでのような日本の住宅寿命30年を前提とすれば、化粧スレート屋根で良いでしょうが、少なくともその倍の期間となると、スレート屋根は葺替えが必要になります。
30年の間には、10年おきに再塗装が望ましく、その際塗装の縁切りを行わないと漏水の原因となります。また、スレート板の上を歩く場合、板が割れないように注意する必要もあります。
スレート屋根の場合、スレート同士が斜めに接する棟の部分は金物となるので、この部分はコストアップになっても、より耐久性のある金属を使う方が長期的には望ましいと言えます。
瓦屋根のメンテナンス
一方、瓦屋根は、素材自体は倍の年くらいまで持つかもしれませんが、漆喰部分などは劣化するので取り替えや補修が必要となります。
また、瓦のズレの点検・補修の費用は見込んでおく必要があります。
先にお話しした「重い屋根」「軽い屋根」の耐震性については、重い瓦屋根は当初からそれなりの荷重を見込んで、壁量(耐震壁の必要量)を確保しますので、駆体コストのアップにはなりますが、耐震性能は軽い屋根と同等になると言えます。最近では強風時に飛散しない工法や製品も出ているので、それらを検討されるのも良いでしょう。
スレート、瓦、共通のテーマ「下葺材の劣化」と、通気下地屋根工法
ここから少しだけ専門的な(同業では常識ですが)お話しになりますが、化粧スレート屋根と瓦屋根の両者に共通する下葺材の劣化の問題です。
一般的に採用されている、スレート屋根の直葺き工法、瓦屋根の(流し桟を使わない)瓦桟のみの在来工法の場合、いずれも30年目で下葺材の交換が必要になります。
これは、在来の下葺工法では、浸入した雨水が滞留して、野地板等が劣化しやすいためです(下図参照)。このままでは、瓦屋根の場合でも、瓦は再利用するとしても、いったん下葺材交換の工事が必要となります。
この問題を解消するために、通気下地屋根工法が推奨されています。(国土技術政策総合研究所:木造住宅の耐久性向上に関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究)
この通気工法を採用する場合、30年目の下葺材の交換時期が緩和できると見込まれていて、イニシャルコストはアップしますが、瓦屋根では特にメリットがあります。
こうした点も加味して、トータルコスト比較やメンテナンス工程検討が必要ですね。
化粧スレート屋根と瓦屋根比較:まとめにかえて
ここまでのお話しをまとめると、次のようになります。
① 時系列でメンテナンスを理解する:新築であっても、引渡し直後から劣化はスタートする。時系列で我が家のメンテナンスを考えておきたいですね。
② どのくらいの寿命を期待して、どのくらい住むつもりかで比較する:これまでのような住宅寿命30年程度で住み替えを考えるのか、あるいは3世代までの住まいを期待するのか。30年で屋根の葺替え時期が到来し、やがてトータルコストが逆転する可能性もあることも意識したいですね。
③ 仕上材だけを比べるのではなく、副材料や下葺材の劣化・補修・交換までを捉える:屋根仕上材そのものだけの耐久性に注目するのでなく、再塗装や板金・漆喰の補修のサイクルも考慮する。さらに、下葺材の寿命や工法もメンテナンスの工程に影響することも知っておきたいですね。
④ デメリットだった部分を解消した製品も開発されているので、イニシャルのコストアップ分とランニングコストの圧縮分のトータルで考える:どうしてもイニシャルコストで比べがち。また地震・台風の被害ニュースなどから一般論で捉えがち。しかし、最新の工法・製品の開発状況を知り、客観的に判断するようにしたいですね。
化粧スレートが主流の新築戸建住宅ですが、耐久性の観点から瓦屋根をラインアップしている住宅メーカーもあります。そうして見ると、中古住宅はともかく、新築住宅は化粧スレート屋根、ともいちがいに言えないかもしれませんね。
なお、中古住宅で耐震性能向上の観点から、瓦屋根を金属屋根などに全面改修される例もありますが、その場合は屋根の断熱性能を強化すること、あわせて小屋裏(天井裏)の換気を確保することをお忘れなく。
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