木造戸建ての駆体(骨組み)が組み上がると、その住宅のボリュームがはっきりしてきます。図面段階はもちろん、基礎の段階でも、まだまだどのくらいになるのかイメージできなかったものが、急にはっきりします。
木の香りの中で屋根を見上げると、この先小屋裏(屋根裏)となって隠れてしまう部分もすべて見ることができます。ちょっとした感動を覚える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
まずは、それに関してのお話から…
目次
【質問:天井裏を覗いたことありますか?】
小屋裏(屋根裏)には、漏水、結露、金物、換気、断熱など、住宅の状態を示すさまざまなサインが見られるのですが、ご自分で小屋裏を見た方はまだまだ少数派。
最近の住宅には天井点検口がほとんど付いていますが、築20年のお住まいでは、そもそもどこから天井裏を見ることができるのか、お気づきでないお宅も多いようです。
O様:「2階物入れの天井が外せて、そこから天井裏に入れるとは知りませんでした。」
S様:「押入の天袋は狭いので、あそこから天井に入れるとは思いませんでした。」
R様:「押入の上から入ることは知っていましたが、物がたくさんしまってあってどけるのがたいへんで、上がったことはありませんでした。いっしょに荷物をどけてくださって、ちょっと恐縮です。」
K様:「天井裏の入り方、はじめて知りました。」
N様:「2階納戸の天井点検口はわかっていましたが、高い脚立を2階に持って上がるのがたいへんなので、一度もあけたことがなかったです。」
(いずれも口頭聞き取りを記録)
お住まいの天井裏を覗いたことがない、という方が多いです。
年代別の断熱材敷設状況
既存住宅(中古住宅)の小屋裏で問題になるのが、断熱材の欠損。
天井点検口がないお宅でも、押入れ天袋の天井の板が外せて、そこから小屋裏に入れたりします。
ただし、それらを開けたとき、天井裏の暗闇が現れたとしたら、最初の減点です。そこには、断熱材がかぶっている必要があります。
それでは、ここから年代の古い順に天井裏断熱材の敷設状況を見てゆきましょう。それぞれ、報告書に載せた写真を中心に引用してみました。
①40年より前に建てられたお宅の例では、親御様から相続された住宅で、天井裏断熱材自体が敷設されていませんでした。
かつての瓦屋根の住宅では、こうした例も少なくありません。(写真 左)
②築40年の別のお宅の例では、やはり瓦屋根ですが、天井裏に断熱材が敷かれていました。
ただし、2階の和室や洋室など居室の天井の上には断熱材が敷かれているものの、押入れ、物入れ、廊下などの非居室の上には断熱材がなく、天井板だけとなっていました。(写真 右)
③居室の上だけに断熱材を敷く、という考え方は、その後も根強く残っていたらしく、築20年程度のお宅の天井でも見られることがあります。
物入れの上には断熱材が敷かれていません。(写真 左)
④断熱材を敷設しない範囲は徐々に狭まってゆき、この稿の最初のように点検口の上などだけを残すようになり、今では天井全面に断熱材を敷き込むことが一般的となりました。(写真 右)
⑤ところが、全面的に断熱材を天井裏に敷き込むことが一般的となりつつある中でも、断熱材の乱れや隙間、めくれなどは相変わらず見かけることが少なくありません。
近年、家庭用エアコンが普及して、夏場酷暑の日でもエアコンをフル回転させて乗り切る生活スタイルが一般化してきました。
しかし、断熱材の欠損箇所から熱のロスをずっと垂れ流し続けていることは、ランニングコストの点で大きなムダとなっていることに注意すべきではないでしょうか。
O様:「エコとか省エネという流行りことばと、わが家の天井裏の断熱材と関係があるということ?」
S様:「長い眼で見て、経済的にムダと言われると、ちょっとまずいなと思いますね。」
R様:「天井裏には入ったことがなくて、断熱材なんかはちゃんとしているかと思ったら、案外乱れたりしているのですね。」
K様:「めくれたところだけでも、ちょっと直しておかなければと思いました。」
N様:「最近の夏の酷暑を考えると、隙間などのロスは大いに問題ありだと思いますね。」
(いずれも口頭聞き取りを記録)
お話してみると、皆様一様に、熱のロスについて再認識されていました。
天井断熱に関連して:住まいの省エネ問題について
ここでまた余談になりますが、FP(ファイナンシャルプランナー)の勉強会などで発表当番の時などに、変わり種建築士FPの私からの話題として、「エコとか省エネというのは、きれい事ではなくて、まさに家計の問題ですよ。たとえば住まいの、夏・冬の熱のロス。」などとお話したことがあります。
正統なFPの皆さんは、さすがにマクロ、ミクロの経済的な話題をされますが、こうした方面にはやや関心が薄いようです。むしろFPとしてではなく、住まい手個人としてちょっと考えてみませんか、ということです。
住まいの断熱の基本は、「居住空間全体を断熱材で包み込む」ことと、あちこちで書きましたが、断熱材の欠損は、熱のロスにつながり、そのまま家計のムダをずっと垂れ流すことになります。
脱線ついでにお話ししますと、最近の住まいの省エネに関する話題のひとつに、「省エネの健康効果」というテーマがあります。
高血圧に影響する要素として、食生活、ストレスなどの他、住宅内の温熱環境も関係する、というものです。
「年間を通じて室温が安定している住宅では、居住者の血圧の季節差も小さい」ということが検証されています。
特に「高齢者ほど室温と血圧との関連が強い」という調査結果と合わせると、最近マスコミなどでよく言われるヒートショックの問題につながっていきます。
上の絵は、高齢者などが冬場、居間→廊下→脱衣室→浴室(浴槽)へと移動するときに、まわりの温度変化につれて、血圧がどのように変動するかを描いたもので、たいへん分かりやすいので引用させていただきました。(図の朱色の折れ線が血圧変動をあらわしています)
非居室の天井裏に断熱材を敷かなかった、かつての住宅では、居室(居間など)から非居室(廊下など)に移る際に、温度変化があり、血圧が変化していたことになります。
「室温が不安定な場合、血圧も不安定」になりがちであること、また、「室温低下は睡眠障害を助長する」こと、そして、断熱改修をした後「起床時の最高血圧は有意に低下する(特に循環系疾患リスクが高い人ほど効果)」ことも実証されつつあります。(伊加賀俊治慶大教授らの研究成果)
このように、断熱改修などの温熱環境の改善による「健康効果」が検証されてくると、住宅の省エネ化は、家計における光熱費の削減などとともに、疾病が減ることによる医療費支出の削減など、これまで気がつかなかった、改修工事の初期投資の回収メリットにもつながっていきます。
もうひとつの天井内問題:小屋裏の湿気、換気問題
小屋裏(屋根裏)を拝見すると、木部の表面にカビが付着しているのを見かけることがあります。
カビ(真菌)は腐朽菌とは別もので、腐朽菌が文字通り木材を「腐らせ」て、木材の耐久性にまで影響を及ぼすのに対して、カビは木材の表面で繁殖しますが、耐久性を低下させることはありません。
住宅の劣化という観点では、腐朽・蟻害と並んで呼ばれるように、腐朽菌はシロアリの食害と並んで木造住宅の大敵です。
しかし、だからと言ってカビなら放置しておいて良い、と言うわけではありません。カビそのものは住宅の強度に悪影響を与えないと言っても、カビが発生する環境は湿度が高く、腐朽菌が好む環境でもあるからです。カビの発生は、腐朽の指標と言われるゆえんです。
そもそもカビの胞子は人体に悪影響を与えるので、カビの発生は抑制しなくてはいけません。カビも腐朽菌も湿度が高い場所を好むので、小屋裏(天井裏)の換気が重要です。
小屋裏換気は、一般に自然換気となります。吸気口と排気口から、外気と天井内の空気が自然に入れ替わります。
下の図表は、小屋裏換気に関して、他コラムでもお話ししたものです。
小屋裏換気のための、換気孔のタイプと必要な開口面積については、住宅金融支援機構の「木造住宅工事仕様書」に、目安が示されています。それをもとにまとめ直したのがこの図表です。
図表の中の数字は、換気孔の必要面積を計算するためのもので、天井部分の床面積に数値をかけて算出します。
下の写真は軒裏の吸排気口の例で、吸気と排気を同じ軒先で行います。
この写真の例は、上の図表の「ロ」のタイプで中古住宅に良く見られます。
「ロ」のタイプは、同一の換気口で、吸気と排気を兼ねることと、小屋裏全体に対して低い位置に開口があるので、他のタイプに比べて効率が悪く、必要面積が大きくなります。
これに対して最近では、軒裏を吸気専用にして、屋根頂上の棟の部分から排気する「へ」のタイプもよく見られるようになってきました。
「棟換気」と呼ばれるタイプです。暖かい空気が上昇して排気されるため効率的な小屋裏換気の方式となります。
まとめ
お話しをうかがうと、ご自宅の小屋裏は、床下以上に覗いた方が少ないように思います。もっとも、覗く程度に止めておいて、梁の上などは危険ですから歩かないほうがよろしいと思います。
ここでは主に、断熱材の不備と小屋裏換気について扱いましたが、もし小屋裏を覗かれるなら、野地板や垂木の雨染みなどにも注意されるとよろしいと思います。
最後に、押入れの天袋に荷物が多くて、天井裏には入ったことがないとお話しいただいたお客様からのメールです。
( 略 )
2階押入の上の荷物をいっしょに動かしていただき、ありがとうございました。
屋根裏の様子、写真をたくさん撮っていただいたので、良くわかりました。断熱のマットが意外と乱れていて驚きました。
それから、夏の屋根裏調査は、暑すぎて危険ですね。
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