戸建て住宅の工事では、1階床が張られてしまうと、床下の状態を俯瞰して見ることはできなくなります。基礎工事、そして床下配管が終わると、土台から駆体(骨組み)工事が始まります。
木造住宅の駆体工事のスピード感は、ビル建築に比べて、とても速く、大引き越しに垣間見えていた床下配管も、あっという間に床下に隠れます。
後になって、床下点検口が設けられ、この開口だけが、唯一床上と床下をつなぐこととなります。
目次
【質問:床下を覗いたことありますか?】
ときどきこんな質問を差し上げることがあります。まずは床下点検口をご存じかどうか、聞いておきたい意図もありますので。すると、たとえば次のような、さまざまなお応えが・・・
S様:「昔、一度だけ、あります。『匍匐(ほふく)前進』というやつで進みましたよ。」
O様:「いや、ないですよ。だって、入り方が分からないから。」
K様:「台所の床下収蔵庫を外すと入れるとは、初耳でした。入ったことはもちろんないです。」
N様:「以前、床下収納のところから床下を覗いたことはあります。降りてはいないですけど。」
A様:「うちは長期優良なので、床下点検口は2箇所あります。開けたことはないですけど。」
(いずれも口頭聞き取りを記録)
少し意外かも知れませんが、床下を覗いた、時には床下に入ったという方にときどきお会いします。あるいは、天井裏を覗いたという方より多いかも知れません。
床下問題1:入れない床下・・・床をめくって
最近では、ベタ基礎や防蟻・防湿用ということで、床下がコンクリートという住宅が増えました。
そして、キッチンの床下収納庫や床下点検口など、床下に容易に入れるようになりました。
しかし、少し古い住宅ではそうした点検口が見当たらない例もあります。
O様:「(床下に入ったことは)ないですよ。だって、入り方が分からないから。」
そうお応えになった方のお住まいは、昔ならではの和風住宅。
そこで、1階の和室の畳をめくらせていただき、その下の荒床(あらゆか=下張りの床)を見ると、運良く床板が外れました。
床下は土がむき出しになっています。
(参考情報)ここで、「畳をめくる」ことについて。写真のような「手鉤(てかぎ)」を使うと、簡単に持ち上がります。
ところで、新築では畳の部屋を設けることが少なくなりましたが、中古住宅の多くには和室があります。
その畳をめくると、白いカビが見られることがあります。写真はそれぞれ別のお宅の和室の畳をめくった時のものです。
カビが見られるということは、湿気があることを意味します。1階の場合は、床下からの湿気が疑われるので、この後の床下調査で、床下の湿度を調べる必要があります。
床下問題2:シロアリの被害、防蟻・防湿について
先ほどの荒床が外れたお宅の話の続きです。根太(ねだ=荒床を受ける角材)の間から床下の土間に入り、床下の状態を見てみました。
すると、床を支える木製束(つか)の一本が、あきらかに蟻害(シロアリの被害)を受けているのが分かりました。束の上部からその上の大引き(おおびき=根太を受ける横材)にかけて、蟻道(ぎどう=シロアリの通り道)も見られます。
最近の住宅の床束は、鋼製やプラスチック製なので、こうした束材そのもの被害はありませんが、もし立上がり部に蟻道があれば、土台や大引きなどの木部が被害を受けます。
蟻害については、以前はヤマトシロアリかイエシロアリによるものと言われてきました。
ヤマトシロアリは北海道の北部を除き、日本全土に分布し、イエシロアリは神奈川以西の比較的温暖な海岸地域と南西諸島、小笠原諸島に分布します。
ところが最近では、乾燥した木材を好むシロアリで、住宅の小屋裏(天井裏)などの乾燥した木材に巣を作るアメリカカンザイシロアリが注目されていて、実はまだ駆除の決定打がないというのが実情です。
蟻害への対策として、木造住宅では防蟻材を地面から1mまで塗布する、という法的な規制があります。
そうしたことから、最近の木造住宅の土台や大引きは、工場において、インサイジング加工(材木の表面に細かい切り込みを入れること)した上で、防腐・防蟻の薬剤を圧入処理したものを現場に搬入して組立てることが多くなりました。
こうした対策が行われてはいるものの、新種のシロアリの行動は以前の規制をはるかに超えているので、防蟻処理済みと言っても、蟻害の点検を定期的に行う必要があります。
また、床下の土間については、最近はベタ基礎などコンクリートで覆うことが一般化していますが、中古住宅では、まだ土のままという例も少なくありません。
コンクリートでなくても、防湿・防蟻用のシートを敷いた上に、砂層を設けるなどの措置が取られていれば良いのですが、先ほどの例をはじめ防湿・防蟻措置のない中古住宅も少なくありません。
上の写真のうち右二枚は、床下に雑草が茂っていた例ですが、これなどは床下に防湿・防蟻の措置が取られていなかったことを如実に示しています。
床下問題3:断熱材の落下、気流止め
中古住宅の床下調査でときどき見かけるのは、せっかくの床下断熱材が、外れてしまっていたり、大きくたわんでしまったりした状態です。
下の写真は、冒頭の質問のところで、「以前、床下収納のところから床下を覗いたことはあります。」と、言われた方のお宅の床下で見かけた例です。
床下を覗かれたとのことですが、断熱材の外れには気がつかなかったようですね。ちなみにこのお宅の床下土間はコンクリートが打設されていたので、床下の移動は比較的容易でした。
ところで、床下付近の断熱材については、下の写真に図示してあるように、床下と壁の立ち上がりの接点(取り合い)に注意する必要があります。
たとえば冬場、床下の冷気が壁内の断熱材に沿って上昇して、暖房効果を低下させてしまうという問題です。これは、天井裏の断熱材と壁の接点(取り合い)の問題に関連しますが、壁内を暖かい空気が上昇して屋根裏に逃げてしまい、そこに床下の冷気が入り込んでしまうためです。
外壁内に隙間がある場合は、一種の隙間風として室内の熱は逃げます。そして、もし壁内を断熱材で充填できたとしても、それだけではやはり熱は逃げます。
それは、外壁の壁内にグラスウールなどの断熱材が充填されている場合、グラスウールの断熱効果は、ガラス繊維の間に溜まっている空気が熱を伝えにくくしていることによるものなのです。
このとき、壁の内部で気流が生じてしまうと、その空気の移動に伴って断熱材に含まれている空気の熱も移動してしまい、そのため断熱性能が低下してしまう、という理屈です。
さらに、床下は一般的に多湿になりやすいので、気流とともに床下の湿気も移動してしまうため、これが壁体内の内部結露を引き起こして、断熱材の断熱性能にも影響してしまいます。
このように断熱材がありながら室内の熱が逃げてしまうのを避けるためには、要所に気流止めを設けます。
下の図は、気流止めのない住宅(上)と気流止めを設けた住宅(下)を比較したものです。(ともにN研作成)
気流止めを設けることによって、冬の冷気が壁内を流れることがなくなり、壁の室内側表面温度低下や、温められた室内空気が逃げてしてしまうのを防ぐことができます。
この話題は、はじめて聞かれる方はピンとこないかも知れませんが、壁のコンセントボックスや、壁と床・天井の接点の隙間などから冷気が室内に流入するのを防ぐ、というようなイメージです。
こうした改修工事に使われる気流止めは、防湿フィルム付きのマット状グラスウールなどです。防湿フィルム側を外側にして棒状に丸めて壁の隙間に押し込みます。最近では既製品もあります。
ひとつ注意しなければならないのは、気流止めによって壁内気流が流れなくなると、壁内に水分が浸入してきた場合の排湿性能は大きく低下しているということです。
そのため断熱改修では、木材の劣化につながる漏水や結露は避けなければなりません。
そのような漏水や結露が生じる可能性がある場合には、気流止めをせずに、別の断熱改修(設備改修や開口部・天井・床の断熱強化など)に方針変更する必要があります。
床下問題:まとめ
住まいの床下は、小屋裏(天井裏)と同様、なかなか一般の方が定期的に覗いてみることは難しいと思います。
それでも、同じ中古住宅でも、時代が下がるにつれて、床下がコンクリートで覆われて、床下点検も床下収納から可能になり、さらには専用の点検口を設ける例も増えてきました。
ここで取り上げたような、防湿・防蟻(シロアリ)の問題や、断熱の問題などのほか、配管類からの漏水や様々な原因による木部の腐朽など、生活空間の真下の空間では、経年とともにいろいろな劣化が進行しています。
「うちは長期優良なので・・・」とお応えになった依頼者様のご自邸は、比較的新しいお住まいですが、そうした長期優良住宅の制度や、そのもととなる住宅性能評価の基準などが、申請をする・しないに関わらず、住宅の性能向上につながっていると言えます。床下や天井の点検口が当たり前のようになったのはそのひとつの現れだと思います。
床下だけに限る内容ではありませんが、報告書受領後、次のようなメールをいただきました。冒頭のところで引用した「匍匐前進で・・・」とお応えになった、ご年配の依頼者様からの、やや長文のメールの終わりのほうを引用させていただきます。
(略)
このレポートを見て、人間ドックを1年に1回受診するように、建物につきましても、5年に1回は住宅診断を受けるべきだと思いました。
このレポートにも述べて有りますように、「要経過観察」の内容も有りますし、建物自体、年月を経れば必ず老朽化していきますゆえ。
ホームインスペクションとは住宅の健康診断。
N 研インスペクション ~ N 研(中尾建築研究室)の住宅診断 お問い合わせ・お申し込み
私たちN 研(中尾建築研究室)の住宅診断各サービスへのお問い合わせ・お申し込みは、この下の「お問い合わせ・お申し込み」フォームよりお願いいたします。
電話( 03-5717-0451 )またはFAX( 同 )でご連絡いただいても結構です。
※ 電話の場合は、業務の都合上対応できない時間もございます。ご了解ください。
※ FAX の場合は、お手数ですが、上記のフォームにある質問項目についてお知らせください。
※ FAX でお申し込みをされる場合は、この書式をダウンロードしてお使いください。
(FAX 用)お申し込み書ダウンロード
N 研(中尾建築研究室)の住宅診断 ~ 代表が直接担当いたします
住宅診断にはN 研(中尾建築研究室)代表の中尾がお伺いします。業務の内容によっては、補助メンバーや、ご要望により英語通訳が同行する場合もありますが、 原則代表がメインでご対応いたします。
※検査・調査時に英語通訳者の同行をご希望の場合は、こちら
If you wish to have an English interpreter to be accompanied upon house inspections or surveys, please click here.